第41話 隠し。

1

 頭を殴られ、沈むようにしりもちをつくココウェル。



 それを、騎士アヤメはただ立ってながめていた。



「……助けに行かないのか?」



 問うたのは、黒いフードをかぶったままの騎士に対峙たいじする、プレジア新任教師サイファス・エルジオ。

 アヤメは金のまゆをひそめるサイファスを見る事無く、彼の言葉に応じた。



「手を出すな、と言われている。助太刀の懸念けねん無用むようだ」

「いや、手を出す分には構わないだろ。二人一組のゲームなんだしな。俺が言ってるのは、単純に仲間のピンチに駆け付けなくて――」

詮索せんさく無用むようだ」

「詮索じゃないよ。単にゲームのルールに準じて、どうすれば君の胸の魔石ませきを破壊出来るかと――」



 サイファスの眼前の騎士は、一も二も無く――――胸の魔石を破壊した。



「――な」

「これでゲーム上、お前が私について考える理由は無くなったな」

「……相方のマークが消えてない以上、ゲームは続くだろ」

「私はお前を足止めしている。お前は私を足止めしている。それでいいだろう」

「…………」



 ……彼女の目的が、サイファスには読めなかった。

 ゲームの勝敗さえどうでもいいというのなら、一体何が目的でこのイベントに参加しているのか。

 あの、マリスタになぐられて叫び散らしている美少女の好きにさせたい、ということなのだろうか、と。



(……「足止めしている」?)



 いな

 彼はそんな、個人的気質きしつの部分を不審ふしんに思っているのではなく――警戒しているのだ。意識で。そして――本能で。



 眼前の女性から感じる確かな圧。

 自分など眼中にないはずなのに、イベントのルールで武器は取り上げられている筈なのに、まるで喉元のどもとき出しの刃を当てられているかのような圧迫感。



 直感だった。

 この女性は、とんでもない実力を秘めている、と。



「苦労するな」

「えっ?」



 サイファスを見ず、唐突に話しかけてくる女性に面食らう。

 アヤメはわずかに体をサイファスへかたむけた。



「お転婆てんばの過ぎるれを持つと苦労するだろう」

「……もう慣れたよ。あんたはそうじゃないのか」



 女性は答えない。

 だが、サイファスは確かに見た。



 一瞬、彼へと体を向けかけた黒の女性。

 彼女の口元に、笑みがこぼれていたことに。



「お前も手を出さないでいてくれるとありがたい。おたがいの監視かんしの名目で――もう少し、この座興を楽しんでいようじゃないか」



 サイファスは、ようやく彼女の目的を予測するに至った。



(こいつ……自分の友人がやられているのを楽しんでいるのか?)

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