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 シータが怪訝けげんな声を出す。

 マリスタは「うん」とだけつぶやき、目ではスペースをとらえ続ける。



「何か……話してるね。ちょこちょこ戦ってるけど……?」

「なんか……決着付ける気、無い感じがしない? さすがに、さっきのは手加減したなって感じが……」

「手加減してるんでしょうね。まったく、報道委員わたしたちは試合をりに来たというのに、そっちのけで会話するんですから。なんて甲斐かいのない」



 エリダが目を細めながら言い、観覧席かんらんせきに戻ってきたナタリーが応じる。エリダがきょとんとした顔でナタリーを見た。



「んお、おかえりナタリー。どこ行ってたのよ」

「仕事をしていただけです」

「仕事?」



『〝大概たいがいにしろよ。いつまでこんな茶番を続ける気だ〟』



『!!』



 観覧かんらん席の観衆かんしゅうが、スペース周辺に立っている人々が一斉いっせいに第二ブロックへ注目する。

 ナタリーが冷めた目でため息をき、マリスタが目を丸くした。



「ど――どうして声が……?」



『〝俺の家は「無限むげん内乱ないらん」ですべてを失った。親父おやじがイチから積み上げてきた名声も家督かとくも、仲間だったみんなも、全部失っちまった〟』



 ロハザーの声が、会場にこだまする。

 シータが頬を引き攣らせて目をいた。



「げ……ちょ、これいいの? 身内の話が、全校ぜんこうまるこえ放送だけど」

「ま――まさかナタリー、仕事って」

戦闘せんとうを行うべき場で話ばかりしているのが悪いのですよ。私達報道委員会には、この試合の内容を正しく伝える義務がありますからね。アルクスの名をおとしめないためにも」




◆     ◆




『〝内乱を、母さんと二人で何とか生きびた親父の下に、残ってたのは……人生のすべてをついやしてつかんだ「貴族」の肩書かたがきだけ。二十年前まではまだ、貴族制度きぞくせいどほうとして残ってた時代だ。親父はそれを、必死で守ろうとした〟』



「と……止めなくて、いいのかな。コレ。記録石ディーチェ故障こしょうかな?」



 パールゥが椅子いすに深く腰掛こしかけたまま、誰にでもなくそう投げる。

 同じく座っているリアとパフィラも目をしばたかせて、校医こういパーチェ――魔女まじょリセルが用意した小さな記録石ディーチェに映る映像を見つめていた。

 パールゥの言葉に、答えられる者はいなかった。



『〝だまれ。不幸自慢じまんなら壁に言え。俺がそれを聞いたところで――〟』

『〝自慢じまんなんてできるかよ、この程度で・・・・・悲惨ひさんな話はいくらでも転がってた時代なんだよ。……母親を亡くした、なんて程度ていどの話はな〟』



 ――――――――。



 ――第二十四層にいるすべての人間が、身を固くした。

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