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「当然! カミサマをぶんなぐるためよ!」

「えええっ。いやだぁ」

「いやだじゃないの! 父さんも母さんも、おこってるんだから! わたしもおこる!!」

「なんでぇ」

「わたしたちはね、クローネ。神様に、心の力を供給するために生まれたの」

「キョウキュウ?」



 ぐずるクローネの頭を優しくでるユニア。

 タタリタは一人でエキサイトし、シャドウボクシングなどをしている。



「わたしたちが生きるだけでためることが出来る、心の力。それを神様は、集めたがっているの」

「どうして?」

「それは……分からないけど」

「だからおこってるの!!」



 だん、とタタリタが二人の前に立つ。



「どうして自分が生まれたのか、なんのために生まれてなにをして生きるのか!!! わかんないのはいやなのっ!! だからみんっな、おこってるの!!」

「なんのために……カミサマにこころのちからを……」

「ちがーう!!!」

「わーん!!?!」

「ああっ、もう、タタリタ! そんな叩いちゃだめだって! おばさんに言うよ!」

「『しあわせ』になるの!!」



 ぐるり、とタタリタが観衆を向き、胸を叩く。



「しあわせ?」

「そう! わたしたちはね、クローネ、ユニア。しあわせになるために、生まれたの。みんなみーんな、しあわせになれるの!」

「しあわせ……て、いいものなの?」

「そりゃも~、とってもいいもの! あったかくて、きもちよくて、おなかいっぱいで!! みんなわらってるんだから!!」

「わぁ……!」

「じゃあ、今大人たちが神様と戦う訓練をしてるのは……しあわせになるためなの?」

「そのとーり!!! わたしたちもいつかオトナになる! そのときは、父さんや母さんたちと一緒にたたかうんだよ!」

「いやーーーだーーーーぁあ~」

「なみだひっこめちちんぷいぷいボコー!!!!」

「いぎゃいーー!!!!」

「あ、あぁクローネっ! タタリタっ!!」



 こうして、あわただしい空気と忍び寄る不穏ふおんを残し、幼少期は終わりを告げる。やっと終わった。



 神によって搾取さくしゅされるだけの存在であった人間。

 神など存在したはずは無いから、これは大国からの支配を受けていたことを暗示しているのだろう。

 リシディア王国は、北のアッカス帝国の傀儡かいらい国家こっかとして産声を上げた歴史があるから。



 そして、舞台はタタリタ達が十六歳の時分じふんに移る。



 父母と共に神にあらがう。

 タタリタのそんな願いは、ついに果されることなく終わりをむかえた。



 人間に負の感情をめさせたまま、飼い殺しにする選択をした創世神そうせいしん、ゼタン。

 彼はまるで、増えすぎた植物を間引くように――実に事務的に、そして絶妙な力加減でもって、不穏ふおん分子ぶんし殲滅せんめつを行ったのである。



 火、水、雷、土、風、氷、木、鉄、闇、光。



 自然そのものを操る魔術すべを持つ神に、ちっぽけな人間が敵うべくもなく。



 人間は、絶望と憤怒にさいなまれる家畜かちくとなり果てていた。



「うっ……ぁあ…………父さん……!!!」

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