3



 頭などいくらでも下げよう。

 みょうなプライドは持ち合わせない。



「頼む。知っていることを教えてくれ」

「…………」



 カツ、とローヒールのパンプスが床を鳴らしていく。

 ココウェルの気配が俺の前まで近寄って――――



「っ!?」



 ――突如とつじょ、頭を床に押し付けられた。

 かと思えば、



「あっはは……あははははっ! ブザマな姿ねっ! 頭を下げる以外、相手と交渉する『価値』を持たない男ッ!…………恥ずかしくないの?」

「っ」



 ……急に耳元でささやいてくる。

 頭頂部とうちょうぶに、ものすごい圧と柔らかな弾力を感じる。それが何かなんて考えたくもない。凶器を俺に近付けるな。



 というより……どういう思考回路の持ち主なのだ、こいつは。

 これが何だ、王族の支配欲しはいよく――征服欲せいふくよくのようなものなのだろうか。

 だとしたら、なんといびつな。



「なぁにぃ? なんか体がカタくなぁい? もしかして私のムネ――ううん。おっぱい、意識しちゃってるの? アハハっ、カタくしてるのは体じゃなくてアソコってオチぃ!?」

「…………………………」



 ……気色が悪い。

 馬鹿か、こいつは。

 もしやとは思うが、常日頃つねひごろから男を――



 再び頭をみつけられた。



「調子に乗んな無能がッ!!――――あんたなんかがこのわたしを抱けるわけないでしょ身のほど知れよっ」

「………………」

「……へぇ。ここまで言われても何も言い返せないんだ。なっさけな~っ。このざぁ~こっ♪」

「………………」

「それとも何? あなた、マゾなの? やぁ~だっわたしマゾ男って生理的に無理だなァ~、何も話したくないなぁ」

「………………」

「………………そう。それでも何も言わないの。オトコの尊厳とかないのぉ?………………でも」



 髪をつかまれ、無理矢理目を合わせられる。



 うっとりとした目で――――そう表現するに十分な顔で、金髪の暴君ぼうくんは俺を至近距離で見詰みつめた。



「話してあげてもいいわよ。わたしが知っていること。あなたの態度たいど次第ではね」

「!」

「わたしのお願いをひとつ、聞いてくれたらね」

「……何が望みだ?」

「あはっ」



 目を輝かせ。

 笑った口の奥で舌をあやしく動かし。

 暴君は、



「わたしとこの祭りを回りなさい、ケイ・アマセ。二人っきりで」



 …………そんな素朴そぼくなことを、のたまった。




◆     ◆




「お兄さーん、寄ってかないっ!? サービスするよー!」「あと一個でーす! 買わないとソンしますよーっ!」「おめでとうー! 『魔弾の砲手バレット的当まとあて』、三百ポイントで見事――」『迷子のお知らせです。年少クラスのデジ・クリービィくんが本部テントにてご両親を――』「『ラヴ・ジュエリーファイト』ッ!! 参加申込締さんかもうしこみしめ切りまであとわずか! 今を時めくホットなカップルの参加をお待ち――――」



 ……別に、みょうな展開を予期していたわけではない。訳ではないが。

 ナイセストよろしく、大貴族のように力のある一族は、必ずどこかに闇を抱えている。――とトルトも言っていた。



 それが俺の自由を奪ったり、意志や命を奪うものであれば――最悪の事態も想定しなければならない、と考えていた。それは警戒していた。



 が。

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