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 そうして事態をろくに把握さえ出来ないままに、俺とナタリーはえっさほいさと軽快に進む筋肉ダルマの頭上に抱えられ、どこかへと――運ばれていく。



「しらばっくれるなっ! どうせお前の差し金だろう?!」

「ホント落ち着いてくださいませんか?!?私がこんな物理的肉体的な策謀さくぼうめぐらせるわけがないでしょう、貴方あなたにおネツなあのデカチチ女の刺客しかくなのじゃないですかねえいいとこ?!」

「あいつが――」



 上下する視界の中、二人して背後を見る。

 と、



「まっ……待ちなさいっつってんのよそこのキモ男どもぉぉぉっ!! わたしのケイを返せえええぇっっ!!」

「ケイぃぃぃいいいいー!!! ナタリーいいいぃぃッ!!!」



 …………息も絶え絶えに追いかけてきている。

 ココウェルなどローヒールのくつで走るものだから、今まさに顔面からこけた。



「……あいつじゃないぞ、たぶん」

「……のようですね」



 付いてきているのはマリスタとロハザー、それにサイファスとかいった新任教師だけだ。他はほとんど遅れをとっている。



 というか、この筋肉共が……速すぎる?



 いかん。どこへ連れていくつもりかは皆目かいもく見当が付かないが、このままでは思わぬ不覚を取ってしまう恐れがある。

 今のうちに、少しでも戦闘の準備を――――



 ――――視線を前方へと投げる、その一瞬。



 見覚えのある、艶やかな黒髪を見た。



「えっ?」

「――――、」



 筋肉達の振動の中、はっきりとは目を合わせられなかったが。

 腰でまで伸びたロングヘア、顔に似合わず大きな黒縁の眼鏡。そしてあの服。

 間違いなく――――リリスティア・キスキルだった。



 ――いや、だからといって特に何だということも無いが。

 心臓に悪い。突然視界に入られると。特にこんなていたらくの時は。



「ちょっと何一人感傷かんしょうひたってんですか貴方はもうホント使い物にならな――――きゃっ!?」

「うおっ!?」

「到着ゥ!」

「だぜィ!!」



 放られる体。

 激突を予期して思わずナタリーの方を見たが、直後体を風が包み、安全に床へと下ろされる。

 「な……」というナタリーの声につられて周りを見ると、そこは。



『さあさあさあ!! プレジア大魔法祭一日目大目玉・・・企画、「ラヴ・ジュエリーファイト」!! 参加者締切しめきりまであとわずかぁ! 私の手にあるこの時計の秒針びょうしんが一回りしたら! いよいよ、ラブラブカップル達による爆発バトルロワイアルの開幕となりまぁあああすっっ!!』

「――――らぶらぶ、」

「かっぷる――――?」



 ナタリーと。

 目が、合った。



 合うなよ。

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