第61話 上澄みの不穏

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「ねえー、なんでだいえいゆうやくのケイくんいないの?」

「さあ? 何か用事があるんじゃないの?」

「ようじないよー! こっちのほうがだいじだよ!!」

「あんた関係ないじゃないの大体。参加してないんだからイベントに」

「ルビトはホント好きね『ケイ君』が」

「だいすき!! だってみてよ、ホラおねえちゃん! このそうがんきょーで!」

「あーもう引っ張んないで。何を見ろってのよ」

「きぞくのひとも! へいみんのひとも!! みんないっしょにモンスターとたたかってる!! これぜーんぶケイくんがやったんだよ! ケイくんのおかげなんだよ!」

「それは言い過ぎじゃないの? いっつも言ってるけどさ」

「ちがうもん! ケイくんはぼくのおねがいをかなえてくれたのっ! ホントのかみさまみたいでしょ!」

「まあ……あの時に比べたらね。ホントよく生きて帰ってきたわよねあんたは。貴族だの平民だのでピリピリしてる中等部の実技試験じつぎしけん会場に飛び込んでいったって聞いたときは生きた心地しなかったんだからね」

「は? ぼくいきてるし! わからんもう! おひめさまさがす!」

「はいはい。って、アホね相変わらず! そんな上のほう探したって見つかりっこ――」

「――おねえちゃん。おひめさまとくろいきし、あそこにいるよ?」

「――――はい?」




◆     ◆




「……茶番にこれだけの手間暇てまひまをかけて。退屈しない所だここは」

「おい!! 聞こえてんだろボンクラコラ! アヤメ!!」

「は。お呼びでしたか」

「『は』じゃねーんだよ貴様この……なんでさっさと逃げないのかって聞いてんのこっちはッ!! さっきの放送きいたろーが追われてんのわたしたちはっ」

「そのようですね。ですが」

「ですがも何もあるかよ! それともアレか。実はもう脱出方法なんて無いとかじゃねーだろうな? フザけんなよお前、護衛ごえいとして最低限の任務くらい果たしてから死ねよ!? こんなところで――」

流石さすがに、我が身と比べればあの男を捨てられますか」

「は? 何言ってんのお前」

「ケイ・アマセ。あの男を騎士にとのお言葉、もうお忘れですか。ココウェル」

「――わ――忘れてはねーよ! ただ……………………ココウェル命令! 今すぐあの男をここへ連れて来い!」

「よいのですか? ココウェルの周囲が手薄どころかゼロになってしまいますが」

「あ、や、いやそれはまず…………命令っ! わたしをケイの所へ連れていきなさい!」

「できかねます。場所を存じませぬゆえ

「つっっかえねーな相変わらずっ! わたしを逃がすこともあいつを探すことも出来ないのかお前! 無能! 死ね!」

「そうですね。死ぬかもしれません。貴女あなたも私も」

「えっ」

「…………ああ、申し訳ありません。どうかそう顔を青くなさいませぬよう」

「お前がビビらすこと言うからだろーが!!! マジ殺すぞ!? 言うに事欠いてわたしが死ぬたァどういうことだよ! このわたしが! リシディア王国第二王女のココウェル・ミファ・リシディア様が!! なんでこんなクソだめで死ぬッつーんだよ!!!?」

理由は存じませぬ・・・・・・・・が、プレジアの者達はココウェルを捕らえようとしているのでしょう。一国の姫が捕らわれる理由など、そう多くはないではありませんか。いいように政治利用され、なぐさみものとなった果てに使いつぶされ捨てられる。そのような未来をご想像なされませゥッ、」

「しねーよバカッ!!! 馬鹿!! バァーカ!!!! クソクソクソッ、クソっ、クソッ!!! お前なんか奴らに殺される前に私が殺してやるよ、クソッ、クソッッッ!!!!!――――ハァ、ハァ……!!! 冗談じゃ……冗談じゃないっての……!」



 ――――足蹴あしげにされ、視界におおいかぶさった前髪の隙間すきまから、黒騎士くろきしは王女の動揺どうようる。



 腕で腕を抱えるようにして、胸の脂肪しぼうをかすかに震わせながら立ち尽くすココウェル。



 その姿を見る自分のゆがんだ口を見られず隠し通せている自分に、黒の剣使いは非常な満足を覚えていた。

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