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 パールゥが俺に近付いてくる。ヴィエルナも一緒だ。

 とにかく頭を下げる。



「すまなかった。こんな直前に小道具を」

「い、いいんだよ! アマセ君が無事だったならそれで」

「出られるの?」



 ヴィエルナの言葉が、パールゥの言葉をさえぎって俺の耳に届く。

 ヴィエルナは無表情のまま、じっと俺を見つめていた。



「……ああ、大丈夫。というより、もう代役なんて立てられないだろ」

「ままあるよ。本番前日に役が代わる、こと」

「そ、そうなのか」

「だから、出られないなら――」

「いや、俺は――」



〝あなたは今、戦う人ではない〟



「――――――」

「あ……アマセ君っ。…キースさんッ!」

「? ごめん」

「いや、いいんだパールゥ。ヴィエルナが謝ることじゃない」

「でもアマセ君の気持ちがっ」

「ありがとう。ヴィエルナも。悪かった」

「……ううん。いいよ。小道具の話、しよう。向こうで」



 ヴィエルナとパールゥに続き、動きだす。

 脳の奥底でチリチリと燃え続ける狂気の残滓ざんしに、無理矢理ふたをする。



 ――戦う人でないのなら。



 俺は一体、何者なのだろう。




◆     ◆




「いやー、危なかった。間一髪かんいっぱつ防げましたよ、アマセ君の不意打ち」

「避けられたのにわざと小道具を折ったでしょう、イグニトリオ君」

「やだなぁ、人聞きの悪い。僕は自分の身を守るために必死だっただけですよ」

「あなたにも言えることよ。舞台の上ではあなたは神ゼタン。ギリート・イグニトリオではないわ。私情を挟んで余計なことをしないようにね」

「……まあ否定はしませんけど。でもそれを言うなら、あなただってそうですよ。シャノリア監督かんとく

「…………」

「ご自分でもお分かりですよね。監督がそれだけ意識高く、この興行こうぎょうの成功を望まれてるんだったら、稽古けいこの初期段階で彼を役から降ろすべきでした。病状びょうじょうだってよくご存じだったんでしょう? 彼の保護者であるシャノリア先生だったんですから。それでも彼を降ろさず起用し続けたのはあなたですよね」

「…………」

「ついでだからうかがっていいですか。どうして彼のような病人を起用し続けるんです? 同情とか、保護者のよしみですか? それってえこひいきだと思うんですけど――」

「ひとつだけ」

「はい?」

「この劇は興行こうぎょうじゃない。学校の行事なの。そして私は監督かんとくじゃない。先生です」

「…………」

「先生は、生徒を見守るべき存在よ。そして私が見守る彼は――――戦いあの役を望んでいる。そう思うの」

「望んでる」

「うん。ちょっと難しい話かもしれないけどね」

「どうしてそう思うんです?」

「なんとなくよ。――あなたと向かい合っているときの彼を見るとね」

「……僕と」

「そう。だったら思いをみたい、やり切ってもらいたいと、私は思うだけ」



 ギリートが、釈然しゃくぜんとしない表情で自分の胸に視線を落とす。

 シャノリアが大きく息を吐き、表情を引き締めて舞台へと戻っていく。



「さて。切り替えて次に行かなきゃね。えーと、クローネなしで出来るシーンだから……タタリタ! あなたのシーンやるわよ、タタリタ!」

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