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「んあ、え。あ、はい!!」

「何ボーッとしてるの! もっと気合入れてもらわなきゃ困るわよ! 本番は明後日あさって、もう止まれないんだからね!」

「は――はいっ!!」




「…………ボーっとしてたんじゃなくて、そののことを見てたんだと思うけどなぁ。アルテアスさんも面倒だな、話しかけたいなら話しかければよかったのに。……そういうものなのかなぁ」




◆     ◆




「――すまない。手間をかける」

「安心して。間に合わせて、みせますから」



 グ、と頼もしくガッツポーズをし、ヴィエルナが演習スペースを去っていく。

 小道具こどうぐ修理しゅうりは、配役の無いヴィエルナが一手に引き受けることとなった。



 パールゥはまた、けいと二人になる。



「……、よかったね。小道具」



 かける言葉をとっさに思い付かず、とりあえず声をかける。

 二人だけになっても、圭は彼女に振り向こうとはしなかった。



「ああ。もう足を向けて寝られない。それじゃあ、俺は練習に戻るから」

「今、タタリタの――マリスタのシーンの練習が始まったみたいだから。しばらく出番、なさそうだよ。だ、だからここで」

「そうか。悪い、じゃあ一旦いったん自室じしつに戻るよ」

「そ――そこまでする時間は残ってないんじゃないかなっ」

「パールゥ!」



 見えけ過ぎている魂胆こんたんゆえか。



 圭は声をあらげ、恋する少女の言葉をさえぎる。



「……今は一人になりたいんだ、放っておいてくれ」

「あ…………」



 ――パールゥは、小さくこぶしにぎめる。



〝付き合ってられない〟



 拒絶きょぜつの言葉は、これで二度目だと。



 私は確実に、彼の心を動かし始めていると。



「――うん、わかった。ごめんね、気付いてあげられなくて」

「いいんだ、声をあらげて悪い。それじゃあ」



 圭は彼女に振り向くことなく、転移てんい魔法陣まほうじんへと向かっていく。

 その背中にかけるべき言葉を、少女は知る限りの言葉を引っ張り出して探していく。



(ごめんね、ケイ君。でも、私……もう、ガマンしないって決めたの。ごめん)



 ――彼女が心を決めた・・・・・のは、実技じつぎ試験しけんの時だ。



 秘めた想いを誰にも受け入れてもらえないまま、血の海に沈んだヴィエルナ・キース。

 観覧かんらんせきで、苦手な血と戦いを――とても大切な人が命を失っていくのを、ただ見ていることしか出来なかった自分。



 強く思った。



 「秘めたまま終わるのは嫌だ」、と。



 いだいたからには、伝えたい。

 伝えたからには、受け入れてほしい。

 受け入れてもらったからには、ずっと一緒にいたい。



 片思いは、パールゥ・フォンにとってがた地獄じごくであると、わかってしまった。



(だから、全部するの。私にできることは、全部。――あなたみたいにだよ、ケイ君)



 あなたに影響を受けるのは、マリスタだけではない。

 あなたを追いかけたいのは、マリスタだけではない。

 あなたと一緒に居たいのは、マリスタだけではない。



(――違う。マリスタじゃない・・・・・・・・



「――忘れないでっ」

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