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 マリスタがピシリと固まる。

 馬鹿は放って続ける。



「……へぇ? そっちのイケメン君はちゃあんと勉強してるんだ、さっすが」

「嫌でも印象に残ったさ。どの本を見ていても、お前の写真だけは掲・・・・・・・・・載されていなかった・・・・・・・・・

「一言多いんだよせっかくめてやったとこなのにお前さ!」

「だが、そうなると名前だけではお前が王族だという証拠しょうこにはならない。顔の割れていない王族ならいくらでもかたりようがある」

「メンド臭いわねお前ホント……!」

「ふざけるな。お前の付き人にコチラは知り合いを殺されかけてるんだ。本当なら問答無用もんどうむよう拘束こうそくだぞ」

「ハッ、なんかよく分かんない理由で自爆して死にかけてた奴がよく言うわ!」

「何よりお前の言動、素行……とても王族としての格を備えているとは思えない。ここにいるアルテアス家の一人娘の方がまだマシだ」

「マシって何さマシって!!」

「アルテアス? って……」

「――アルテアス」

「ああ! あの大貴族の?」



 黒フードの首がわずかに動く。

 女も横でポンと手を打ち、マリスタを上から下までながめながらニヤリと笑った。



 ……アルテアスの名に反応を見せた、か。



「あんたみたいのが四大貴族ねぇ。全然そうは見えないけど??」

「全然そうは見えない私の方がまだマシだって言われてんの分かってますかニセ王女様ぁぁぁ~? 逆立ちしたってあんたが王女には見えないのよバーカ! くんだったらもっとマシな嘘をついたらどーかしらっ」

「言わせておけばお前ッ! だったら見せてやるわよ。アヤメ・・・っ!!」

「っ……私の正体までバラしてしまうのですか。もうお忍びで来た意味がないではありませんか」

「見せてやれって命令してんだけど!」

「……承知しました」



 ――黒いフードが落ちる。

 現れたのは一つ結びにされた黒い長髪を後ろで束ねた、中性的ちゅうせいてきな顔立ちの人物。

 体つきから辛うじて女性だと判断できる女が、その鋭い目で俺達をとらえた。



 ――こいつが、マリスタを一瞬で。



「アヤメという。覚えてくれなくても結構だ。私は」

「聞いて驚きなさい。アヤメはね、なんとあの『ヘヴンゼル騎士団きしだん』の一員なのよ!」

『!!』

「ふふん、さすがにその名には聞き覚えがあったみたいね」

「だ――――だってヘヴンゼル騎士団きしだんっていったら、王国軍の中でもメッチャ強い人しかなることが出来ないっていう」

「その通り! アンタたちプレジアの連中なんて、束になったってかないやしないわ。アヤメはそのヘヴンゼル騎士団中でも――――次の騎士長きしちょう候補こうほとまで言われてるんだからね!」

「――――!」



 ヘヴンゼル騎士団。これも、教本で読んだことがある。

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