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 ガイツが飛ばしたその眼光だけで一瞬すくみあがった彼女だが、肺に一塊ひとかたまりの空気をため込み、再度口を開いた。



「力も権力も……必要になるかもしれない、ってことなんですか――――王国と戦うつもりなんですか、アルクスは!?」

「隊長ではない。兵士長だ、私は」

「え……そ、そんなこと今関係」

「アルテアス家の者か。まさか君が義勇兵コースとはな……落ちたものだ・・・・・・、プレジアも」

「――――関係ないでしょって言ってるでしょう!? いいから質問に答えてくださいよ!!」

「二度言わせるな愚鈍ぐどん、事件への質問には答えん。ろくに防衛ぼうえいじゅつも知らぬお前達では、いつ敵に重要な情報を抜かれるか分かったものではないからな。根本的に使えんのだ、お前達餓鬼共は」

「――――っっ、」

「マリスタ、おさ――」

「私達はッ!!!」



 ヴィエルナの制止を振り切り、マリスタが叫ぶ。



「私達は確かに、なんにも力は無いです!! でも私達は私たちなりに団結して頑張――」

「『何も力は無い』!……その時点で詰み・・だと何故理解できん。またも俺の言葉を忘れたか、アルテアス」

「は!!?」

「マリスタっ」

「自分の命さえ守れない者に、他の何かを守ることはできん――そう教えたはずだ。頑張っただと? 頑張るだけなら誰でも出来るんだ。大人の世界に求められるのは結果なんだよ」

「っっ……!」

「――だが、能無しにも出来る仕事はある。それが今我々から君達に課した任務だ。我々にとってもプレジアは古巣ふるすだ。まさか、義勇兵コースの中にはおらんだろう? 連絡係さえ満足にこなせん粗忽物そこつものが――……あるいは、裏切り者が・・・・・

「な――――」

『何ィ!!!?』「俺達を裏切り者呼ばわりするのか!」「どういうつもりですか兵士長!!」「今の発言は取り消して下さい!」「俺達を信用してないんですか!!?」

「どう信用しろと言うのだ」



 ガイツの横から聞こえる澄んだ声が、生徒達を黙らせる。

 ペトラはその青い目をするどく光らせ、彼らを冷たく見回した。



「先のプレジアでの騒動そうどう貴族きぞく至上しじょう主義しゅぎなどという妄言もうげんに踊らされあわやプレジア全体を血で染めかけた貴族くずれ・・・と、存在しない・・・・・平民へいみん』などという身分の者の全面対立。そんな差別さべつ偏見へんけんと、傲慢ごうまん浅薄せんぱくに満ちた温床おんしょうで肥え太ったお前達何の力も無い生徒達に!!…………一体何をどう期待して信じろというんだ」



『――――――………………!』



 ――やり場のない怒りと悔恨かいこんが、調練場の空気を支配する。



「…………っどうしてっ、」



 こみ上げた怒りに後押しされた涙が、マリスタの目からこぼれた。



「どうしてそこまで言うんですかッ!!?」

「……言われるだけの非道ひどうに知らぬぞんぜぬを貫いてきた分際で。何の涙だそれは? 下らない」

「下らなくなんかないッ!!!」

「マリスタッ!」

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