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「ハァ、まあいいけど。ま、一言で言えば『当たらずとも遠からず』だね」

「……はぐらかすなよ」

「……んー。僕嫌いなんだよね。誰かに試されるのは」

「どの口が」

「ねえ、何が言いたいの? さっさと核心に触れてよ帰るよ?」

「…………お前が信用できる人間なら、話しておきたいことが」

「あーストップ。そういうのならストップ」

「何?」

「忘れたの? 君が僕を信用する云々うんぬん以前に、僕が君を信用してないってこと」



〝今の力の最大限、君のすいを見せてくれ。ナイセスト・ティアルバーを倒したときの、あの力を。それを見て決めることにする――――君が本当に、僕の仲間るかどうか〟



「…………」

「勘違いしちゃァいけない。試されてるのは君の方だ。君に出来るのは同志を集めることじゃなく、僕の同志になるかどうかだけ。選ぶのは僕だってことを忘れちゃいけない」

「……お前の警戒心ゆえか?」

「その通り。君みたいな素性も知れない奴に協力なんかしないよ。いかに僕と言えど、命は一つしか持ってないからね。劇はもう一度だけ上演することになったんだし、気を抜かずに訓練してなよ。幸い今はヒマなんだろうし、その独房どくぼうの広さはお稽古けいこをするには十分そうだし。おあつらえ向きじゃないか――それじゃあね、気が向いたらまた来てあげるよ」



 背を向け、ヒラヒラと手を振りながら、ギリートは今度こそ立ち去った。



 静かになった部屋の中、裸足の裏にね返る床の硬さを妙に強く感じながら腰を下ろす。



〝お前は、プレジアを守るために動いてるのか?〟



 ……あの言葉で、俺は何を確かめたかったんだろう。

 ギリートがあんな風に返してくるのは目に見えてたはずじゃなかったか。



〝自分で自分が何言ってるか分からないって顔をしてる〟

〝そう。自分の中に、自分の知らない誰か別の人でも飼ってるような感じ?〟



 ……馬鹿言え。

 俺は俺だ。俺の中には俺以外、他の誰も居ない。



〝けいにーちゃん〟



 もうみんな、居なくなってしまったんだから。

 だから俺は復讐者として、こんな住み慣れぬ異世界にまで足を踏み出して――――



〝兄さん〟



 …………切り替えよう。

 詮無せんないことを考えている余裕は無い。

 今考えるべきことに、意識を向けていくべきだ――――マリスタ達が勝ち取ってくれたチャンスを、無駄にするな。



 奴らは十分やってくれた。

 今度は、俺が頑張る番だ――




◆     ◆




「まだまだ不十分ッ!! 私達はまだまだ頑張んなきゃいけないって思うワケですよ!!!」

「わ、わかりましたから聞こえてますから……早朝から声が大きいですって、周りを見てくださいマリスタ」

「あ……」

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