9



「――――きゃっ!?」



 飛来する大きな何か・・に身をすくませるココウェル。

 それより早くココウェルと飛来物ひらいぶつの間に立ち、何かをばすアヤメ。

 何かはうめき声をあげ、重い音と共にと地面に転がった。



「ぐっ……!!!」

「――――な、」



 ココウェルが目を見開く。

 視線の先に転がったのは――――彼女がずっと探していた、ケイ・アマセその人だったのだ。



 騒然そうぜんとする会場出入口。

 何事かと振り向いた客の頭の上から、背伸びしたマリスタの顔がのぞく。

 さしものココウェルも困惑こんわく、何も言葉を発せないままけいに近づいた。



「ちょ……おま、大丈夫? 何が――」



 やがて自分をおおった影に気付き、ココウェルが口を閉じる。

 「何があった」。

それは、自分に影差したその男の――――ビージ・バディルオンの怒り顔を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだったのである。



「立てよ。テメーにそうやって休んでる権利なんぞあると思ってんのかよっ、『異端いたん』ッッ!!」

「っ!? ちょ、お前何やって――――!!」



 つんいの体勢から起き上がろうとしていたけいの胸倉をビージがつかみ上げ、彼を足が着かない高さにまで持ち上げる。

 圭よりはるかに高く見えるビージの大柄な体に圧倒され、ココウェルはまたも言葉を忘れて彼らを見上げながら数歩後ずさる。

 圭は力無く手足をらしたまま、されるがままである。



「散々言ったよな俺達ァ、あぁ? 本番までには体調整えとけって。せめて段取だんどり通り問題なく動けるくらいにはなっとけって。言わなかったかオイ!!」



 恫喝どうかつ剣幕けんまくでまくしたてるビージ。

 先程まで機神きしんディオデラを演じていた少年の怒号どごうに、マリスタや他の役者達に群がっていた観客達は残らず沈黙ちんもく、事態を静観している。

 場はすっかり、彼らの空気に支配されていた――――ただ一人、アヤメを除いては。



「――――――……」

「解ってるよな。テメーのせいで芝居しばい滅茶苦茶めちゃくちゃになりかけたの。なあ? イグニトリオの機転で助かったからよかったものの、テメーあのまま落ちてたら大怪我おおけがだぞ? 魔法まほう演出えんしゅつはんの奴らは何にも悪くねーのにだ!!」

「…………彼らには、これから謝罪に行く予定だったんだ。だから」

「ほぉ? 俺には――」

「バディルオン君ッ!!!?」



 ビージのそれに負けずともおとらない大声と共に、楽屋から飛び出してくる桃色の少女。パールゥだ。

 ビージは一瞬わずらわしそうに彼女を見たが、すぐに圭へと視線を戻した。

 ココウェルが目をしばたかせた。



「あ……クソイベントのメガネ女」

「何やってるか解ってるのあなたっ!!? 今すぐケイ君を――」

「ごめんねフォンさん。少し黙っててもらえるかな? 僕ら、いい加減もう限界なんだよね」

「お――オーダーガード君……!?」



 猛然もうぜんとビージに迫るパールゥの道をさえぎるように現れたテインツが、苛立ちを隠そうともせずパールゥを見る。

 予想だにしていなかった人物から想定外の感情を向けられ、パールゥが一瞬ひるむ。



「君も随分ずいぶん長かったよね、そこの『異端いたん』に抱き着いてる時間が、やたらにさ」

「な――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る