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 圭に、そして叫んだパールゥに冷たい目を向けるロハザー。

 ヴィエルナによって散らされる客と野次馬やじうま



「……なんか冷めちゃったね」「あんだけ仲良さそうに楽しそうにしてたのに、実際の人間関係があんなことになってるなんてねー」「マジでウザかったんだろうな。うちの委員会のバカップルも、活動中でも二人で見つめ合ったりしてやがるし。病気だぜアレ」「しかも男取り合ってる二人が劇でも男取り合ってるってwヤバくね?」「そりゃ風紀ふうきの連中もキレるよな……」「実技試験でも、委員長をアマセに追い出されたようなものだもんね。なんか不憫ふびんだわ」「ああ……風紀とアマセって、前から小競り合いばっかしてるもんね」「まだ続いてるのぉ?……なんで一緒に劇なんかやろうと思ったんだろうね、あのクラス」



 ――彼らの声が、ココウェルとアヤメの耳にしかとこびりつく。



「……アヤメ、異端いたんってどういうこと?」

「さあ。顔立ちを見る限り、あの男は異邦いほうじんでしょうから、それでそう呼ばれているのでは」

「………………」



 ココウェルが、ビージの手から解放されたけいを見る。

 パールゥに抱き起される金髪の青年の目は、ココウェルには前髪で隠れてうかがい知れないが――――彼が今どんな顔をしているかなど、力無くらされた四肢ししを見るだけで、その心は容易に知れた。



「大丈夫? ケイ君。ケガはどこ?」

「……大丈夫だ。何ともない」

「ないわけ無いよっ、あれだけ風紀ふうきの人達に」

「悪いパールゥ。今は一人にしてくれ」

「ケイ君……!」

「ケイの言う通りだよ」



 その声に、パールゥは瞬時に言葉を切り、口をかたく引き結んで振り返る。

 向けられたするどい眼光に、マリスタは開きかけた口を一瞬閉じかけた。



「今は、私もパールゥも……ケイから離れた方がいいと思う。聞いたでしょ、今の。みんなピリピリしてるんだよ、私達が――」

飽きた・・・の? 大貴族サマは」

「――え」

「……あなたは彼を守らなかった」

「な、なんの話――」

「マリスタ・アルテアスは、ケイくんを守らなかったッッ!!」

『!!?』



 パールゥの怒声に、その場の全員がぎょっとする。

 舞台ぶたいでさえ聞こえなかったほどの大声に、マリスタは誰の目にも明らかなほどに顔を狼狽ろうばいさせ、後退あとずさった。

 反論を許さぬ憤怒の空気をまとい、パールゥは鼻先が触れそうな距離まで、マリスタに近づき、そして、



「――――二度とケイ・・に近寄らないで? この売女ばいた

「――――――――」



 ――――驚愕きょうがくと戸惑いと、少しの怒りとがマリスタの見開かれた目に宿ったときには。

 パールゥは彼女から視線を外し、再びよろよろと歩き出していた圭に近寄ろうとしていた。



 それを今度は、ヴィエルナが制止する。



「……邪魔じゃまなんだけど」

「頭、冷やして。今マリスタが言ったこと、忘れたの? あなた達、今。彼に近寄るべきじゃない」

「邪魔なんだけどッ!!?」

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