7



(夢だ。これは)



 見開かれたまま固まった両目から涙を流しながら、されるがままで動けないココウェル。

 残っていた下半身のドレスもかれ――――臭気に満ちた男の顔が不快に下半身をまさぐる。



「っっっハぁアぁァあぁァぁぁ、うんめえええええええぇぇ」



(だって嘘だ。わたしが――このココウェルが娼婦と間違われて、挙句自ら名乗り出ても認知されないなんて。そんなこと、そんな、あるわけが)



「ああぁぁあぁあぁぁ、すっげぇぇぇェェエよこのオンナァァァァッッッ!! 上玉にも程があンだろォォォ!!! アァたまんねぇっへへェ、吹き出したくてたまんねェよォォォ!!」



 大人しくなった下着一枚の少女を置き、男が自らのズボンを下ろしにかかる。

 背後でカチャカチャと鳴るベルトの音に気付いたとき、不意に――――ココウェルの中に、先刻上げ損ねた悲鳴が戻ってくる。



 そこからはもう、止まらなかった。



「――――ふざけろ……キモいキモいキモいキモいキモいッッッ!!!! クソがァァァァッッ!!!」

「あハヒ、へ、くそ、っここ、興奮しすぎてゆ、ゆびが……ひへっへ、オイなァ大丈夫だって、俺ァやさしいんだへへ、だから静かにしろよぉふっふ、」

「寄んなバケモンがァァッッ!!! わた、わたしは王女だぞッッ!!? こんな扱いされていいわけねェだろうがよぉぉッッ!!!?」

「あばれんなっておォい!!」

「寄んな触んな臭せェキメェェェェェェッッッ!!! やめろおおオォォグッ!!?」

「お前客を前にクセェだのキメェだのどういうことなんだよォォォッッ!!!」

「あ゛ッあ゛ッあ゛ッあ゛ッあ゛ッあ゛ッ、」



 蹴られる。

 蹴られる。

 蹴られる。

 蹴られる。

 蹴られる。

 蹴られる。



 体も頭も大事なところも全部全部、全部、蹴られる。

 踏み潰される。髪が千切れる。

 血が流れる。



 流れて、流れて、気が付いて――――――ココウェルは、媚びるように男の足にしがみついている自分をやっと認識した。



「(……え?)おねがい、ごめんなさい。ごめんなさい、あやまるから、シていいから。だからもう、けらないで……ころさないで……」

「はぁ~~~~~~、ハァ~~~~~~~、ハァ゛~~~~、そうだ……最初からそうしてりゃ気持ちよくしてやったんだ」



 汗まみれになった太った体を震わせながら。



 男がココウェルの目の前で、下半身をあらわにする。



「……そうだ、アレやれ」

「……?」

「一度へへっへ、やらせてみたかったんだよォ。あれだよ――――俺にブチ込んでほしいってびてみろ。自分で開いて見せてみ・・・・・・・・・・

「……………………」



 ――――押しつぶされそうに胃が痛む。

 せり上がってくる恐怖と胃液を必死に抑える。

 もう左目が見えない。血も流しすぎている。

 次叩かれれば死んでしまうかもしれない。



(こんな男の前で……そんな恥をさらせと?)

「急げよォ。見つかったらやべえんだよぉ」

(こんな男に……こんな形でわたしを捧げろと?)

「急げってェッッッ!!!!」

「ッッッ!!!」



 声が出ない。

 足が震える。

 どうしようもない恐怖が、生きたいと望む命が、下着に手をかけさせる。



(……なんて無様を晒してるんだ、わたし)



 王女である自分が。

 瓦礫のど真ん中で。

 市中のど真ん中で。

 全裸になって男に犯されようとしている。



 もう自分は王女などではないのではないか。

 いや――そもそも最初から王女などではなかったのか。



 だから    愛されず   捨てられる。

誰からも    もてあそばれ



「――――――――、」



 自分の中の何かが崩れていく音を聞きながら、少女はゆっくりと下着を下ろしていく。



 男は下半身を最高潮さいこうちょう怒張どちょうさせ、こらえきれず雄たけびと共に娼女しょうじょに襲いかかる。



 男が背後から真っ二つに両断されたのは、その時だった。



『――――――――――ぇ?』

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