5



 爆音。

 ケイミーの背で爆発した魔弾の砲手バレットに彼女がひるんだ刹那せつなひざを叩き込んだ右足を伸ばし、足の甲で押し返すようにしてケイミーの組み付きを脱する。

 脱した先には、当然――



「くっ!?」

「――――」



 ――着地したばかりの、接近戦は苦手なアトロ・バンテラス。



 ローブをつかみ、無理矢理接近戦に持ち込む。

 多少心得はあるようだが、どうとでもなる。

 我武者羅がむしゃらに繰り出される攻撃をいなし、宝石へと真っ直ぐに――



「づァっ!!」

「!!?」



 隙を突いて伸ばした手がはらわれた。



 背後右下から床をすべるような音。



「ッやぁぁぁああああッッ!!!」

「なに――ッ!」



 床を手根しゅこんくだき。



 俺の真横わずかにおくで左手にて支えを作ったケイミーが手の力だけで体を持ち上げ、くの字に曲げるようにして蹴りを放つ。

 たせるかな、反射的に胸の前で交差させた腕にその一撃は命中――――俺は尻で床を滑って壁にまで吹き飛んだ。



「っ……!」

「石は大丈夫っ!?」

「大丈夫! それより悪い! ケガはなかったかっ、ケイミー!」

「ふふっ……まだ落ちてなかったよ!」

「!? 落ち――」

「威力! 魔弾の砲手バレットの!」

「……ケイミー」

「ヒヨってる場合じゃないよっ、アトロ! そうでしょ!」

「……サンキュー!」



 聞こえよがしに励まし合う二人。

 だが、お陰で体勢を崩したまま追撃を受けるのは回避できた。

 何やらお祭り気分だな。



 ――そう笑ってもいられない、か。



 立ち上がり、先程アトロに払われた腕に意識を向ける。

 あの時、間違いなく勝ったと思った。

 アトロの防御をはじり、完全に宝石へと手が届いたと思った。



 それほどに、俺の目と頭は腐っているのだと言わざるを得ない。



 力任せながら、俺の腕がアトロに弾かれたのには変わりない。

 つまり見誤ったのだ、相手の力量を。相手が手出しできない状況を。



 勝ったと思い込み、疑うことさえしなかった一瞬。



 馬鹿が。

 俺の白兵はくへいの実力は、これまで誰からも散々コケにされてきたんだろうが。



「――――っ、」



 笑みが込み上げる。

 俺は弱い。それを、



 それを、こんなにも存分ぞんぶんに意識出来ているのはいつぶりだろう。



 戦えている。

 戦いのことだけ考えられている。

 それがたまらなく嬉しく――――同時に、疑問だった。



 痛みの呪いはどこに行った?

 完治? まさか。

 だが一時的に消えているだけだとすれば、それは一体何の作用によって――



 ケイミーが目の前。



「これで――終わらせてやるッ!!」

「ちっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る