2




◆     ◆




 第二層だいにそう救急きゅうきゅう治療室ちりょうしつ

 医務室いむしつ併設へいせつされた、平時は立ち入り禁止となっているその場所へつながる両開きのドアを――ロハザーは破壊せんばかりに押し開けた。



「外部の医療術師いりょうじゅつし要請ようせい完了しました!」

容体ようだいは?」

「未だ不安定。心音しんおん確認、不規則ふきそくです」

対象群たいしょうぐん固着こちゃく、魔法陣安定。輸血ゆけつお願いします!」

「……!」



 ……彼の眼前を、嵐のように飛び交っていく声。

 ロハザーが飛び込んできた音など露ほども気にならぬ様子で、医療いりょうスタッフたちは治療に奔走ほんそうしていた。



 まっすぐびる廊下ろうかをの壁際に、六つの鉄扉てっぴが存在する。

 そのうちの一つ、ドアノブ付近に備え付けられている魔石ませきが赤く光っている部屋に出入りするスタッフを見て――ロハザーは、小さく息をんだ。



「……ロハザー」

「!! お前ら――っ、」



 ロハザーの耳にしっかりと届いたふるえ声。

 誰も彼もが忙しなく動き回っている場所の隅で、ただ動けず立ち尽くす集団。

 ロハザーは声の主――マリスタ・アルテアスの両肩をがしりとつかんだ。



「ヴィエルナはッ!?」

「わ――わかんないの。中には入れてもらえなかったから――い、痛いよロハザー」

「容体は!? 意識は戻ってなかったのか、なんか見なかったのか!!」

「み、見てないったら! ちょっと、落ち着いて――」

「斬られた腕は!! ちゃんとつながる見込みはどのぐらい――」

「少し黙って、ハイエイト君!」



 めずらしい声。

 怒気どきと少しの焦りをはらんだシスティーナの叱声しっせいに、ロハザーは切迫した目で何か言い返そうとし――その肩を、別の誰かにつかまれた。



 振り返るロハザー。そこには、彼と同じく風紀委員の面々。ロハザーの肩に手を置いたグレーローブの少年が、目を閉じて首を横に振る。

 彼らもまた、先の試合の惨状さんじょうを目の当たりにして駆け付けたのである。



 ……ロハザーが、マリスタをつかむ手の力を緩める。

 マリスタ達のぎょっとした視線に気付き、システィーナはばつが悪そうに胸の下で腕を組むと、ロハザーから視線をらした。

 その先には、魔石の赤く光るとびら――ヴィエルナがいる治療房ちりょうぼう



「……ハイエイト君。私達は、みんなあなたと同じものを見ただけよ。…………血の海に沈む、キースさんを」

「…………なんで…………」



 知らずれる疑問。



 その言葉に続くであろうどの言葉にも、誰一人として返答することは出来ない。

 そうわかったからこそ、ロハザーはその先を口にせず、



「なんでキースは、ティアルバーさんと戦ってたんだ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る