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 ――ココウェルの悲鳴。

 振り返った先の煙の中へ、彼女と共に飛び込んでいく人影。

煙がゆっくりと晴れていき――その姿は現れる。



 それは見たことが無い模様もようり込まれた仮面を付けた、もう一人の黒装束。



 ほぼ同時に、ペトラと黒装束が人質の首筋にナイフをあてがった。



「嘘っ、気配が全く――」

仮初の就縛パティゲルト

ぁっ――!?」



 ココウェルに一番近い位置にいたリリスティアが初めて動揺どうようらしい動揺を見せる。その間に拘束魔法こうそくまほうを唱え、ココウェルを後ろ手に縛り上げてしまう黒装束。



 あの仮面、さっきシャノリアが相手をしていた奴とは違う模様だ。

 三人目の黒装束――馬鹿な、こいつは商業区にいるはずじゃ――



 ――背筋が、ゾワリとした。



「――貴様ッッ――」



 ペトラの声が怒りと絶望を帯びる。



「――ガイツ班商業区の奴らをどうしたッッ!!!」

『解放しろ。同胞どうほうを』



 ペトラの問いには答えず――機械音声が淡々と要求と、現実を突きつける。



『人質の価値くらい理解できるだろう? どちらが優位に立って・・・・・・・・・・いるか・・・、解らんわけじゃあるまい』

「……!」



 ……そうだ。



 見た目には、互いに一人の人質を取っている。

 だがどこの馬の骨とも知れない女と一国の王女では、最早もはや交渉ごとにさえならない。

 だが――――そうでないとしたら・・・・・・・・・



「……渡すなよ・・・・。ペトラ」

『!』

「アマセ……!!」



 ……表情を見ずともわかる。

 人質を渡した所で当然ココウェルは解放されず状況は悪くなるだけ、だが万が一にもココウェルに死なれる訳にはいかない。故に渡すしかない。

 その苦渋くじゅうが声色に満ちている。



 だが違う。

 分の悪い賭けではあるが――――恐らく勝てはせずとも負けは・・・・・・・・・・しない・・・



「大丈夫だ。こいつらにココウェルは殺せない・・・・




◆     ◆




「……もうもちません。この子は」

「あッハァ……頑張ったわよォ、アンタは。そう悔やみなさんな」



 学園区、救護施設。



 グウェルエギア大学府だいがくふの教授バニング・ロイビードは、同じく水属性魔法の権威けんいであるミルクリー・ヴァサマンにフォローされながら、忸怩じくじたる思いで下げた拳を握りしめた。



「リシディアの医学者でありながら……肝心な時に無力とは……!」

「仕方ありませんわ。急ごしらえのテント張って、ろくに設備も薬も無い中で、知識と自前の魔力を使った魔法だけではどうしたって限界があります」



 どこか冷たく聞こえる声で応えたのはプレジアの医務教諭パーチェ・リコリス。

 バニングが歯噛はがみする。



「チッ……せめて、大学府の医療設備がこの場にあれば……!」

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