10



 屈んだ姿勢から完全に立ち上がってもいないナイセストの姿がき消える。

 音も無い無動作の瞬転ラピドを感知できたのは、もう一人のホワイトローブのみ。




「危ないッッ!!!」



 マリスタが叫ぶ。ヴィエルナは振り返れない。

 果たせるかな、空中でガラ空きの背を見せた灰色はそのまま白のひとりを――



 ヴィエルナが、空を飛んだ・・・・・



「ッ!!!?」



 圭が目をしばたかせる。

 観覧かんらんせきの誰もが瞬間言葉を失い――思い出すようにして、悲鳴のような歓声かんせいをあげる。

 トルトがうなり、ペトラが笑った。



「うお……空気ってんだか今」

瞬転空アラピド――――空気をって飛ぶ上級じょうきゅう移動いどうじゅつ、それも二連続で瞬時に背後を……!!」



 ヴィエルナがせまる。ナイセストは、



「?!??!??」

「え、え、え――――」



 ナイセストも、飛んだ。



 エリダとマリスタがひたすらに眼球を動かす。

 上へ飛んだナイセストからの一撃を回避かいひすべく、ヴィエルナがまた空をる。

 超速ちょうそく滑空かっくうしていくヴィエルナを追い、ナイセストもまた空気を足場に追いすがる。



「…………!、?」

「んんー?? どうなってんの? キースさんもティアルバー君も消えたよ??」



 まるでそこに地があるかのように乱れ飛ぶ灰と白。

 画面越しの少女達には、目で追うことすらすでに叶わぬ。



(――――なんてこった)



 英雄の鎧ヘロス・ラスタングの使えるけいでさえ、その速度を――中空ちゅうくう瞬転ラピド瞬転空アラピド連続使用による超速戦闘ちょうそくせんとうを途切れ途切れにしか追いきれない。



「んぎゃぁっ!!?」

「し、シータっ!?」



 突如とつじょ眼前で鳴った叩きつけるような音にシータがひっくり返る。

 システィーナは、眼前の障壁しょうへきを足場に再び飛んでいくヴィエルナの姿を一瞬とらえた。



 同様の音が、障壁のいたるところで鳴り響く。

 それが障壁を足場にみだぶ灰と白であると観衆かんしゅうが認識し始めた時――――スペース中空ちゅうくうから音と衝撃しょうげきが弾け飛び、観覧席に襲い掛かった。

 観覧席から悲鳴が上がる。



「……押し切れ。もうそのまま押し切れ、ヴィエルナッ……!!」



 ロハザーがこぶしを握りめる。

 スペース中央のくうで、超速でぶつかり合う両者のこぶし

 空気を引き裂く速度でり出された拳同士の激突は――――魔装具まそうぐである籠手ガントレットを身に着けたヴィエルナに軍配ぐんばいがあがっていたのだ。



 ナイセストが拳のぶつかる力場りきばから弾け飛び、何とか障壁に着地する。

 立て直す間を与えず、ヴィエルナの拳が迫る。



 改めて。



(……やっぱり俺は、あいつに勝ててなどいなかった)



 圭は改めて、これまでずっとヴィエルナ・キースという少女に手加減されて試されていたのだと、実感せざるを得なかった。



(……だがどういうことだ? これ・・は……)

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