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 アトロふんする兵士がクローネを止める。

 至極しごく冷静な眼差しで、クローネは兵士をとらえた。



「結果の報告だけか?……導けよ。これまでのように、俺達を」

「考える時間をくれ。そして、皆が悲しみを乗り越え、また前を向けるだけの時間も。君にもそれが必要だろう」

どこだよ・・・・。前って。……どの方向のことを言ってんだよ」

「――――――」



 自虐的な笑みを浮かべ、男が小さく首を振る。



「……ネコかぶってんじゃねぇぞッ!!! 一人で平気そうな顔しやがってッ!!――――言えよちゃんと。負けたんだろ俺達は。もうどこにも『前』なんてねぇんだろうがッ!!」



 兵士がクローネにつかみかかる。

 慌てて涙をぬぐい、引き離そうとユニアも立ち上がった。



「全部、全部。全部なくなったぞクローネ、ええ? 親兄弟も妻も息子も友達も先生も、俺には誰も居なくなったぞッ!! 俺だけじゃねぇ、ここに居る連中はどいつもこいつも!!!」

「ちょっと――やめなさい!」

「どうだよ昔と比べてよ、ああ? お前達三人に乗せられて!!! 人間はもっと自由に暮らせるだのなんだの言われて!!! 結果がコレか?? 自由になったか俺達は??――――自由なんてカケラも無くなっちまったじゃねぇかッ!!!」



 兵士がクローネを投げ飛ばす。

 


「何言ってるのッ!! みんな覚悟のうえでここまできたんでしょうッ!」

「自分が死ぬ覚悟なんざとっくに出来てたよッ!!!――――大切な人達を神の支配から解放するために死ぬ覚悟はッ!!」

「!」

「でももう誰も居ねぇんだよッ! 誰もいないんだよッッ!!!――――俺達に何が出来るよ。何が残ってるよ、あぁ?――――犬死いぬじにする未来だけじゃねぇかよッッ!!!」



 地団太じだんだむように、伏せて地を打つ兵士。

 座り込む生き残りの中にはクローネをかばう者も、兵士に同調する者さえも、いなかった。



 皆、悟ってしまっているのだ。

 もう何をしても、本当に無駄だと。

 どうあがこうと、泣き叫ぼうと。そう遠くない未来に、人間は滅亡するのだと。



 だから。



「そうだ。きっと神も同じように考えてるだろう」



 だからこそ、クローネの淡々とした声は、部屋へとやけに大きく響いた。



「だから、奴らは必ず『詰め』の先手せんてを、打ってくるはずだ」

「……詰めの先手?」

「クローネ?」



 近しい立場であるはずのユニアさえ疑問をていしているのを見て、兵士はクローネの言葉をそのしのぎの言い訳と判断する。



「……テキトーなこと言ってんなよ総大将よォッ!! 先手を打ってくるって、その先手で俺達は終わり――」

「奴は今、この上なく上等な『心の力』を手にしている」

「――上等な?」

「俺達人間が、生きているだけで貯めることが出来る、意志力いしりょくとでも呼ぶべきもの。『魔力まりょく』というエネルギーを、圧倒的に増幅させることが出来る力――魔法を扱えるようになったからこそわかる。ゼタンにとってこの人間界にんげんかいは、出来得る限り手放したくない『意志力の畑』なんだ」

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえよ、それが今の状況やお前の言葉と何の関係――」

「だからこそ俺達はまだ生かされている」

「――――――」

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