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「ご安心ください。この男は、」

「どうしてそんなことが言えますッ!? 独房を作り替え、枷もされていないということは魔力も使えるこの男が――」

「この男は、私以上のリシディアの・・・・・・・・・・忠臣・・であるからです」

「……え……?」

「……呵々々々々かかかかか……そう言うてくれるな。――このような場所へ、ようこそおいで下さいました。ココウェル・ミファ・リシディア殿下。お久しゅうございます」

「!(こいつも私を……)」

「呵々。『何故私を』という顔をしておいででしょうな。……存じ上げておりますとも。とてもね」

「……?」



 目の前でひざまずき、頭をれながら笑う初老の男。

 ココウェルはいよいよ困惑し、ナイセストに視線を送るが――等のナイセストは目をつぶり、ディルスと彼女の会話を邪魔すまいと立っているのみだ。



「……協力を。していただけるのですか? あなたも」

「なんなりと。ですがよろしいのですかな」

「……非常時です。あなた方を解放するのは一時的な措置であると、わたしから王には――」

「王がそれしきで、殿下をお許しになればよいのですが」

「……それはわたしの問題です。あなたが気にすることではありません」

「……御意ぎょいのままに。もはや陽の光など拝めぬ生だと自負しておりましたが……いやはや、呵々。なんと運命とは数奇なものでしょうな……かしこまりました。我らティアルバーの力、今こそ御身おんみの為存分に振るいましょう」



 ――ココウェルがつい先ほどまで捕まっていた老騎士、フェゲンと似た笑い方をする男。

 しかし感じられる印象は、その気品は、ただ歳をとっただけの老人とは一味も二味も違っていて、ひざまずいていながら威厳いげんさえ感じられる。



 「格」の差。



 ココウェルはそれを、この時初めて目にした気がした。



「さて。かような場所では音も届かぬでな……一体娑婆しゃばでは何が起こっている。ナイセスト」

「見ればわかる。ともかく一緒に来い」




◆     ◆




「……成程。かような状況でございましたか」



 ヘヴンゼル城、城門――否、城門跡じょうもんあと



 今もなお崩れ続け、瓦礫がれきが落下している危険地帯――その場所で倒れ虫の息なレヴェーネ・キースを前に、ディルス・ティアルバーは静かな目でつぶやいた。



「きっともう彼には時間がない。だからお願いです、ティアルバー。彼を今すぐ――」

「そうですな」



 ディルスが言い。



 右手の親指以外を、レヴェーネの額に逆手に突き入れる・・・・・・・・



「ッ!? 何をッッ、」

「おお、幸運な――ここまでの熱傷ねっしょうで脳に損傷はない」



 突き入れた指の隙間から、闇がれ。

 体を一際小刻みに動かして――――レヴェーネ・キースはピクリとも動かなくなった。



「……どうして……どうして殺したのですッ!!」

呵々かか、そう見えても仕方ありませんな――これは、言うなれば麻酔ますいです」

「ま。麻酔?」

「体の感覚を麻痺まひさせる。我が息子が今、殿下の足にしていることの応用のようなものです。ショック死してもつまらんでしょう」

「これと同じ……」

「すぐ済みます――その間、殿下にはお頼み申し上げたいことが」

「っ、何でしょうか?」

「人を。この城にあるすべての者を、ここに集めていただきたい」

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