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「――どうするのです?」

「なあに……城の立て直しに、巻き込んでしまってはまずいのでしょう?」

「っ――解りました。すぐに手配します」

「お願い致します」



 ディルスがレヴェーネに視線を戻し、今度は手に光を宿らせてレヴェーネの顔に触れる。

 ココウェルは彼の下を離れ、近くで――破壊された城門前の石橋のはしで、目の前に手をかかげて何やら目を閉じているナイセストへと近付いた。



「マズいのでしょうって、そんなの当たり前に決まってんでしょ……ナイセスト!」

「――なんでしょう?」

「何をしていたんですか?」

「魔波感知を。何がご命令が?」

「ディルスが城を修繕すると……そのためにけがをした人々を、ここへ運んでほしいのです」

「けがの無い者は?」

「私が声をかけて回ります」

「では先に各階の階段を修復して参ります。殿下は先に一階を」

「頼みます」



 各階でけが人を見る王宮魔術師らに声をかけ、全員を一階へ集合させる。



 すべての生者を集める為、ココウェルはすべての死者をも確認させた。



 王城に避難した一般人の、およそ半数以上が命を落としていた。



(……半数近くを救えた、などと胸を張ることは到底できない。わたしは……わたし達は、半分以上の命を救えなかったのよ。ねえ……父さん。一体どこに行ってしまったの?)

「……でん、か」

「っ!」



 陰鬱いんうつな気持ちで一階へ戻ったココウェルを、聞きたかった声が出迎える。



 いまだ倒れたままではあったが――顔や体の熱傷ねっしょうも完全に治癒したように見えるレヴェーネ・キースは、はっきりとした意識でココウェルを出迎えた。



「ありがとう、ござい、ます」

「喋らなくていい――よくやってくれました、ディルス・ティアルバー」

「有り難きお言葉。少々、寿命は削れたでしょうが……麻痺さえ解ければこれまで通り動けるでしょう――さて。生き残った国民はこれで全部ですかな」

「――その通りです。既に応急処置は施されています、とにかく国民たちを守れるように――――ッわァっ!?!?」



 ココウェルが答えた直後。



 王城の砂色の床、全面が黒き魔光まこうをあげて光り、揺れる。



「きゃあああああッッ!!?」「な、ななな、」「なに、何が起こってるの――!?」「うわあああんっっ、おかあさああああん!」「お、おいおいおい崩れるんじゃないだろうな、これ――」「何しやがったんだティアルバーめッ!!」

「いや――――皆落ち着いてください! これは……!」

呵々かか、」



 闇の光の中心で、ティアルバー家の当主が笑う。



「今一度ご覧あれ。まぶしきヘヴンゼル城、その意匠いしょうの数々を」



 地響きと光の中――――空が消えていく。



 ずたずたに引き裂かれた赤く光沢さえ放つ絨毯じゅうたんが輝きを取り戻し。

 その一筋の深紅しんく重厚じゅうこうな木製の城門へ伸び。

 あちこちで城を支える柱には典雅てんがけものや鳥の掘り込みがよみがえり。

 復活したロビー中央の噴水は再び滾々こんこんと水をたたえ。

 斬り裂かれていた軍旗ぐんきがまた壁をいろどり。

 瓦礫がれきだらけだった足元は照り返しがまぶしい程にみがきあがり。

 倒れ崩されていた壁際かべぎわの鎧は再び勇猛ゆうもうにロビーへ立つ者を迎え。

 足元に光る数々のシャンデリアは天井から再度人々を照らし。



「…………!!!!」

「――こんなものでしょうかな」



 ものの、二分もしないうちに。



 ヘヴンゼル城は、リシディア建国以来の姿をすっかり取り戻していた。

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