第28話 祭の最中、宿命は突如動きだし

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「……覚えて来なさいって言ったわよね、先生ね」

「え、えっと。そ、そうでしたっけ」

「舞台を降りなさい。台本を覚えきるまで稽古げいこには参加させませんッ!!」

「ひ、ぃ……は、はいっ」

「そこのサボり二人ッ!! ボケッとしてないでさっさとこの子の本読みを手伝いなさいッ!!」

『ヒェェえっ!?』

「はい、それじゃキュロスの登場シーンいくわよ。キュロス!」

「…………」

「…………キュ・ロ・スッッッ!!!」

「うおおっ?! お、俺スか!?」

「あなた以外に誰が居るの!? もっと自覚を持ちなさいハイエイト君ッ、自分で立候補りっこうほしたんでしょうが!」

「俺はエキストラ志望だったんですけど!?」

「役者志望であったことには変わりないッ!! さあ舞台に上がりなさいキュロスッ、時間がない」

「そ、その役の名前で呼ぶのやめてもらえませんかずいので!!」

「バカ言いなさい!! 舞台上ではあなたはハイエイトではありません、三大神さんだいしんのキュロスです!!! 役への入れ込みが足らないッ!!」

「練習初日でンなムチャな!!!」

「練習ではなく稽古けいこッ!!!」

「う~~わマジめんどくせぇこの人!!!」

「お黙り!! そしてバディルオン君ッ!!」

「こ、今度は俺かッ……」

「最初の立ち位置が違うでしょうがッ! あなたは最初もっと上手かみて、この辺りに立ってるの!! そんなはしっこに居ちゃ照明しょうめいに当たらなくて体が半分カゲっちゃうわよ!!」

「あ、ああ分かった分かりましたっ、お、俺から見て左ですねっ?」

みぎひだりじゃ分からないっ、上手かみて下手しもてで答えなさいッ!!」

「余計分かんねーですよ!! 大体先生初日から素人しろうとの俺達に求めすぎでしょうよっ」

「すべて台本にト書とがきで書いてあるでしょーがッ! どうして調べるくらいしてこなかったの、台本配ったのなんて一週間以上前よっ!!」

「ぬ、ぐ……?!」

「まったく! ホントお話にならないわっ。あなた達、明日以降もカクゴしてなさいよっ!!」

「………………何なんだ。あいつは」

「みんな大好き、シャノリア・ディノバーツ先生に決まってるでしょ。ただ不幸なことにシャノリア先生は、ちょっと年間百本以上のお芝居しばいをごらんになるマニアフリークで、ご自身も劇作げきさくにある程度ていど造詣ぞうけいがあったというだけ」



 さらりとシスティーナ。



「地獄か。かじった程度の奴が大物プロデューサーを気取ってイキってるだけじゃないか」

「聞こえてるわよケイ!!!」

「っ」



 ぐわり、と鬼が顔を向ける。

 髪をアップにしてまとめ、胡散うさんくさいプロデューサーのようにカーディガンを首下で結んだ「いかにも」なたたずまい。

 その下に構える表情たるや、普段ふだん柔和にゅうわさなど欠片も残っていない。怒り狂った時のビージといい勝負じゃないか。

 ……そのくせ、モデルぜんとしたスラリとした麗らかさはかげりを見せていない。何かこう、体型維持たいけいいじ秘訣ひけつでもあるんだろうか。



「そんな無駄口を叩いているひまがあったらね、少しでも大人しくして衣裳いしょうがかり採寸さいすんに協力なさい!! あなたが周りを引っ張らなくちゃいけないのよ、主役さん・・・・!!」

「……………………」



 …………そう。

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