3



 圧。



 およそその少女から発されるとは予想も出来ない圧がマリスタを襲い、押されたその一瞬に、



 黒の騎士は、ココウェルとマリスタの間に割りった。



「なっ、」

「マリスタッ!!」



 サイファスの声。

 冷や汗と共に、心臓を突き抜けた鉄の感触がよみがえる一瞬。

 マリスタはとっさにアヤメの腰元こしもとを確認したが――そこにあの黒いさやは無かった。



(――違う!)



 鞘など無くて当然だ。

 これはルールの存在するイベントの一環。

 武器の使用は禁止され、事前に回収されている。



 だが、だったら彼女の両目から放たれる殺気は何なのか。

 なぜ彼女は――――まるでそこに得物があるかのように、抜剣の構えを取っているのか。



 死の恐怖に。



 ルールへの配慮など、消えて失せた。



精霊の壁フェクテス・クードッッ!!!!!!」



 目が痛むほどの閃光。



 マリスタは吹き飛び、背中を地面に打ち付けた。



「うぐっ!」

「ふむぐっ!?」



 アヤメが一息に黒装束くろしょうぞくを脱ぎ払い、ココウェルに覆いかぶせて視界をふさぐ。

 その一瞬でね起き、慌てて迎撃態勢をとったマリスタだったが――――起き上がったその時には、すでにアヤメの腰から光は消え失せていた。



(光が私を殺そうと――いや。私が防御するのを待ってから、光が放たれた?)



 先程の殺気が嘘であったかのように、アヤメはマリスタの方を見もしない。

 ただかぶせた装束の上からココウェルの頭をつかみ、何かを語りかけている。



 黒装束の下にまとっていたものは、黒を基調にした軽装けいそうの鎧。

 今のプレジアでは、ともすればコスプレの一つともとられそうな物々しい姿に、マリスタは――――ようやく、目の前で布をかぶせられている少女が王族、ココウェル・ミファ・リシディアであることを確信した。



『おおっとぉ!? こちらでもどうやら意外なる結末を迎えたカップル? が現れたようだぁー!! というかちょっとっ!? どっちもちゃんとルール理解してたァ!?』

「! ……あ、」

『ルール外の魔法の使用が確認されました!! よってコチラ二組のペアは失格となりますっ!! 残りはたったの五組だァ!!』

「マリスタ、大丈夫か!?」



 サイファスが駆け寄り、マリスタのそばかがむ。

 駆け寄ってきたサイファスの顔を見て、マリスタはようやく呼吸することを思い出した。



「――――はっ。はぁっ、はぁっ……!?」

「――何かやられたのか?」

「う……ううん。やられてはない、けど」



 マリスタは、改めてアヤメを見る。

 装束の下からココウェルが抜け出し、アヤメの装束を投げ捨てているところだった。



(……どうしてあの人は、急に割り込んできたんだろう。あんまり王女がキレてたから? いや、たぶんそうじゃなくて……)



 ココウェルがアヤメのほおを張り飛ばした。



『!!』

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