同心――――このこころはかりものだから

「くブ、ぅッ――!!」



 ナイセストも吐血とけつする。



 鍔迫つばぜり合う氷と闇の双剣そうけん隙間すきまい、地に赤がしたたっていく。

 最後の二振りの片割かたわれが、ひびれる。



 最強の紋様もんようが、一際ひときわ輝いた。



「ゥッ――――ォォォォオオオオアアアアッ!!!!!」

「ッ!!! ア……!!!」



 鮮血せんけつ

 左の氷剣ひょうけんくだけ散る。



 鍔迫りを破ったナイセストの一撃が、俺の胸をえぐった。

 力任せに吹き飛ばされたおかげでそう深くはないが――熱と違和感、そして追うように――痛みが走った。



 着地。

 魔波まはの激突だけで後ろにくずれ落ちそうな体でなんとか地に足を食いしばる。

 ナイセストが野太くえ、苦悶くもんに体をらせた。

 胸元を押さえる。

 血が――――血が、止まらない。



「ッッ!!!!!、――――――」



 むように、ゴボリと血をこぼし散らす。

 焼けるようなのどの熱さ。逆流に収縮しゅうしゅくする臓腑ぞうふ

 命そのものが抜けてしまう感覚。

 鮮明になってくる痛み。



 ――――体に、力が入らなくなった。



 かたむく。ゆっくりと床が近づいてくる。

 その視界から、立ち直るのはもはや不可能であると見た。

 ナイセストは――



 ――ナイセストも同様。

 仰け反った姿勢のままゆっくりと体を地にかたむけながら、うつろに空を見ている。



 ――この辺にしておこう。

 相討あいうったというなら大殊勲だいしゅくんではないか。



 吐血もした。

 これ以上は体がもたない。

 俺の目的は復讐ふくしゅうだ。こんなところで命を燃やし尽くすわけにはいかない。



 意識ににじり寄る闇を感じ、目を閉じていくに任せる。



 戦果は上々。

 俺はこれで、あのいけ好かない魔女に――――









   勝て。

      圭ッ……!!









 ――――ああ。


       なんて、重たい。



 叫ぶ。

 前方の地をくだいた右足に、爪がすべて砕けんばかりの力が込もる。

 体が、ゆっくりと前へ――目を見開いたナイセストへ、進んでいく。



 ――右手にある、折れかけの氷剣を握りめる。



 天瀬あませけいは、ナイセスト・ティアルバーに敗北した。

 俺はあの一瞬、確かに勝負をあきらめた。

 敗北はすでに、俺の心に深くきざまれたのだ。



 だから、これは俺じゃない・・・・・



 この一撃は、



『いけ――――ッ!!! ケイ・アマセ――――――ッッ!!!!』



 ケイ・アマセ異世界からの、一撃。



 ナイセストが、俺でない何かに目を見開く。



 ケイ・アマセはやたら大袈裟おおげさ雄叫おたけびなどをあげ、たくされたひびの氷剣を、



「あああああああああ――――――――ッッッ!!!!!!」



 ――――――ナイセスト・ティアルバーの左肩に、深々ふかぶかと叩き込んだ。

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