終幕



 剣が折れる。

 ナイセストが鮮血せんけつを散らしながら吹き飛ぶ。



 俺は前のめりに倒れ、また小さく血を吐いた。



 視界がかすむ。

 霞む視界を、それでも閉じず、前を見る。



 最初に見たのは、床に落ちるホワイトローブのすそ

 次に見たのは――――力無くだいに倒れ伏す、ナイセスト・ティアルバー。



 ――――――聞こえてきたのは、耳をる声援だった。



『時間だ、そこまで!!』



 監督かんとくかんの声がする。

 時間切れ。ということは、十五分。



 ――まったく。

 なんと長い、十五分か。



 全身の筋肉が弛緩しかんしていくのが解る。

 解るが、意識だけは手放さないようにしなければ。

 決着を聞くためではない。

 今意識を失えば、腹の傷口を塞いでいる氷が解けてしまうかもしれないからだ。

 死んでしまっては本末ほんまつ転倒てんとうである。



 ――金輪際こんりんざい

 金輪際、誰かの期待を背負って戦うことはすまい。

 重くて重くてかなわなかった。

 引きぎわさえ自分で決めることが出来ない――――それはアルクスの団長もダメだと言っていたではないか。

 それを奴ら、次から次へと俺に背負わせてきやがって…………まったくもって不適格じゃないか。どいつもこいつも。



 筋肉がゆるんでいる。

 緩んでいるからだ――顔が、自然と笑ってしまうのは。



 せめて伏せておこう。

 血まみれで笑う顔など、それこそナタリーパパラッチの格好の標的「前を見ろ圭ッッ!!!!」



 ――――――頭がつぶれそうなほど魔波まはが、俺に押し寄せた。



 前を見る。

 そこにいるのはナイセスト。

 いや、



「がッ――――は――――ッ!!?」



 内臓ないぞうが、脳がれる。

 つかまれた感覚は一瞬。

 圧迫あっぱくを感じた次の瞬間には両足首をひとまとめに拘束こうそくされ、両腕を背の方向に押し広げるような力が働き――――さながら、磔刑たっけいしょされる罪人のような格好になっていた。



 こおらせた傷口が裂けるように痛む。

 その痛みに、俺はいやおうにも意識を覚醒かくせいさせられ、



「…………なん、だコレ」



 俺を見透みすかすようにのぞむ、巨大な赤銅しゃくどう髑髏どくろを見た。



 落ちくぼんだ髑髏の瞳。

 かぶった襤褸ぼろのフード。

 上半身だけの骨。

 そして――その胸元に抱きかかえられ項垂うなだれる、ナイセスト。



 あいつ、意識はもうないのか……? でもだったらこれは、



「ッ…………!!!」



 見えた。

 目に入ってしまった。



 実体じったいを持たない、存在そのものが濃密な魔波まはのそれである赤銅の死神。



 その手に握られた、血のび付いた赤銅の大鎌おおがまを。



 待て。


        それはゆっくりと、



 今そんなものを、


        振り上げられて、



 くらったら、俺は、


        赤銅は、







        俺の胸に、振り下ろされt

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