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「今、俺の前にそうしてこうべれていること。それは、お前もケイ・アマセの為に……家柄さえ投げ打つ覚悟ということなのか? アマセが黒だった場合、その行為が家に――――国にどんな事態を引き起こすか、わかってるのか?」

「…………国」

「犯罪者の片棒かたぼうかついだ家がどうなるかは、よく分かっているはずだ。つい数か月前まで、ここで権勢けんせいほこっていたティアルバー家は、今やプレジアでは語ることさえタブー視される罪人ざいにんだ。国内全ての邸宅ていたくには調査の手が入り、財産もことごと没収ぼっしゅう。血縁の者は残らず捕らえられ、娑婆シャバにティアルバーの血を引く者は誰一人としていなくなった。たった二ヶ月の間に、だ」

「…………」

「その上ティアルバーは、プレジア建国に携わり、今なおこの国を支える柱の一つでもあった大貴族だいきぞくの一。彼らがいなくなることは、そのまま国の疲弊ひへいにさえつながるんだ。リシディアが過去幾度も他国の侵略によって国土を削られてきたことは十分に学んでいるだろう。――そしてそれはお前も同じだ、アルテアス」

「…………!」

かせろ。お前は――お前達は、そうしたリスクを飲んででも、ケイ・アマセを信ずるに足る人物だと言い切れるのか?」



 ――声を挙げろ。

 自らフェイリーに付いていけ。



 たったそれだけで終わる、無意味な茶番劇。

 そのカードを握っているのは俺だ。

 誰にどうさえぎられることも無い。



 なのに、お前は何故――――黙りこくったまま、知り合い達に頭を下げさせているのだ、ケイ・アマセ。



 お前はすでに、彼らの気持ちを無下にする行いをしている。

 たったひと声をどうして挙げない。

 この茶番を続けさせているのが俺であることが、ナタリーづたいででもこの場の者達に露見ろけんすれば、俺は彼らからの信用を無駄に傷付けることになる。



 だが動かない。



 いな、動けない。



 天瀬圭あませけいは、こんなにも状況を解っているのに――――がんとして、ケイ・アマセの身体を動かすことが出来ない。



 何なんだ。

 まさか、これも呪いの一種だとでも――――



〝あなたはお母さんと同じ……いいえ。お母さんよりも大きい、大きい優しさを持っている〟



「――言えま」

「言うな。バカ」

「――ぇ」



 毅然きぜんとフェイリーを見上げた赤毛のつむじに声を投げる。

 マリスタは虚を突かれた表情で、左肩越しに俺を見た。



「け、ケイ?――ってバカって何よッ!?」

「馬鹿だから言ってるんだ。こんなしょうもない口車くちぐるまに乗せられて、一世一代の宣言なんぞ使うもんじゃない。そんなのはもっと大事な機会に取っておけ」

「馬鹿じゃないッ! 私は知ってるもの、なんだかんだいってあんたは――――って、え? 口車・・?」

「ああ。皆も体を起こしてくれ。いつまで容疑者候補・・・・・ごとに付き合っている」

『!?』

「――――!?」

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