諦念――――格の違いはあまりにも?



「――――……どうしてって、決まってるじゃないか」



追撃を避け瞬転ラピドで後退し、滑るようにして片膝かたひざを地に着く。

 十数メートル遠くから迫るナイセストが、やけに近く見える。



 英雄の鎧ヘロス・ラスタングではない。

 無理な魔力ブーストでもない。

 であれば、答えは単純たんじゅん明快めいかい

ナイセスト・ティアルバーは、ケイ・アマセより強いのだ。



 膂力りょりょくも体力も、速力も。

 すべての仕様スペックいて、俺は奴を下回っている――――



兵装の盾アルメス・クードを使わなくなったな。ケイ・アマセ」

「ッ!」



 眼前がんぜんに迫った拳に、止むを得ず――拳を合わせてしまう。



 激突する拳。

 果たせるかな、俺の拳に――――骨をくだかんばかりの激痛が走った。



「っづァ……ッ!!」

「いや。使えない・・・・んだな、今は。インターバルで」

「!!!」

貧相ひんそう魔術まじゅつだ、ケイ・アマセ――――お前の盾の砲手エスクドバレットとやらは、障壁しょうへき魔法まほう最大の欠点である『連続使用不可』を克服こくふくできてはいない。全方位ぜんほうい展開てんかいされる障壁を、ただ千切ちぎって小出しにしているだけだ」

凍の舞踏ペクエシスッ!!」



 ナイセストが後退「つまり、弾切れ・・・になったお前は――――物理ぶつり攻撃こうげきに完全に無防備になる!」



 後ろだ。















 ――――――――――――――はらわたが、なぐつぶされた音。



 吹き飛ぶ。内臓ないぞうねっされたような痛みが腹部ふくぶを襲う。

 到底とうてい自分のものとは思われない有声ゆうせいの悲鳴が口をき、閉じたのどからひねり出された胃液が食道しょくどうを焼く。



「ォ゛ッ!!!――ェ゛エッっ……!!!!!!」



 叩き付けられ、横たわる。地に。



 り上がってきたを、き止めることも出来ずぶちまける。

 悲鳴が聞こえた。耳が遠い。

 追撃が来る。なんとか体勢を――――



「〝――闇黒やみくろあるじよ。上天じょうてん光明こうみょう加護かごせし蒼然そうぜんまとう神よ〟」



上級じょうきゅう魔法まほうッッ!!!」

「逃げてアマセ君ッ!!! アマセ君ってばぁ!!」



 立て。



 ――――立て!!!!!!



「ぐっ……ぅ゛ア……゛ァアッ……!!」



 四肢ししに意識を総動員そうどういんし、力を込める。

 叫びに呼応し、口が更に血を吐いた。

 臓物ぞうもつじられるような痛みが腹部ふくぶを襲い、たまらず頭を地に押し付けてしまう。

 馬鹿が、こんなことをしている時間は――



「〝君側くんそく下名かめい暗黒あんこくを。反旗はんきれに静かなる死を。漆黒しっこく慈悲じひなり〟」



 ――時間は、もう無い。



 精霊の壁フェクテス・クードを展開。

 と同時に、空気がじ曲がったかと思うほどの魔力がナイセストの手に収束しゅうそくし、



終焉抱き新月カファルダ・ザヴァグス



 俺の視界を、黒でつぶした。

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