直撃――――劣化の波動



 魔風まふうのように障壁にまとわりついた漆黒しっこく

障壁を構成する魔素まその赤い網目あみめあらわになり――やみ魔力まりょくによって結びつきを劣化れっかさせられていく。

 もろい内側から、がれ落ちるように障壁が削られていく。

 少しでも、少しでも時間を――――



 ――――精霊の壁フェクテス・クードが、ひび割れて。








 そこからは、あっけなかった。



 絶叫ぜっきょう。していたと、思う。

 大火に立ち上る濛々もうもうとした黒煙こくえんのように、うねりながら障壁をのぼっていた闇がひびを突き破り――真っ黒が、逃げ場のない俺の身体を飲み込んだ。



 焼けるような痛み。

 回転する視界。

 耳をつんざ轟音ごうおん

 体内で攪拌かくはんされる臓腑ぞうふ

 四方八方から襲いかる、――魔波まはによる、圧迫。



 体の自由が利かない。

 両側からり出した壁に体をつぶされるような、逃げ場のない絶望と狂いそうな程の圧迫あっぱく

 そして――――千切ちぎれていくような感覚と共に、死んでいく魔力回路ゼーレ

 闇の侵蝕しんしょく――あのとき、ヴィエルナが受けていた苦痛を、余すところなく今、俺も体験している。これほどとは――――



 ――――そうか。



 圧迫が消える。

 重力を思い出した体が途端とたんひざを折り、壁にその身をあず尻餅しりもちを着く。

 視点が定まらない。

のどと口にびた鉄とさんの味と痛みが広がる。

 手や腕が、その内部が焼け付くようにしびれ、動かない。



「――――――゛ァ、」



 動かせ。

 せめて動かせるところを、すべて使え。



「ァ゛ァアアァア、゛ァ゛あああアぁア――――――!!!!」

「――――口も利けなくなったか。それにしても無様に『侵蝕しんしょく』されたものだ」



 叫びながら天井をあおぎ、壁に頭をこすり付ける。

 腹筋を痙攣けいれんさせ、狂ったように叫び続ける。



 観覧席かんらんせきから聞こえる悲痛な叫び。

 目の前に迫る神妙しんみょうな顔のナイセスト。



 奴の片手かたてに――再びやみが集いる。



戦士の抜剣アルス・クルギア



 黒紅くろべに紫紺しこんの入りじった漆黒しっこく――湾曲わんきょくけん鎌剣コピシュ一振ひとふり、ナイセストの手に握られる。

 俺は喉を鳴らすように叫びながら項垂うなだれ、腹を抱え込むようにしてうずくまる。



 幸い判定が下る様子はない。

 足音にだけ意識を集中し、外野がいやから向けられる絶叫はすべてシャットアウトする。

 雑音ざつおん最高潮さいこうちょうに達する。










 誰もが試合は終わると、そう思っている。










      面白いな。

           一体何を見せてくれる   んだ?



 うるさいな。



 黙って見ていろ、魔女まじょ

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