10

「……お爺様じいさま

「……よきにせい」

「有り難き幸せ」

「では早く『鳥籠とりかご』を解いていただける? 当主様」



 リセルの声に俺を一瞥いちべつするジレイ。

 その隻眼せきがんらされた時、既に俺を囲っていた刃のおり影も形も・・・・無くなっていた・・・・・・・



「……!」



 ……奴の固有魔術なのか?

 魔法にしては、あまりにも術の発動も消失も早過ぎる。

 俺に向けられた細剣レイピアも、気が付いた時には奴の手に握られていた。



「もう大丈夫よアマセ君――キスキルさん。悪いんだけど、アマセ君用にテントを一つ借りられるかどうか聞いてきてくれない?」

「え……あ、でも」

「元気そうに見えるけど……恐らく、アマセ君は今とても危険な状態にあるわ。一緒に居たなら、彼の症状は見ているわね?」

「……分かりました」

「ありがとう。ひどいケガなのに、ありがとうね」

「いえ、私は…………はい。それじゃあ、行きます」

「お願い――」



 リセルの顔に影が差す。

 ジレイ・ディノバーツはリリスティアから視線を動かし、俺を見つめた。

 リセルは地べたに座る俺を奴の視線から守る様に位置取った。



「……まだ何か?」

「………………」



 静かな、そしてとてつもなく強く、どこか遠くを見る目を。

 奴は俺達から逸らし、歩き去っていく。

 いつの間にか強く――まるで守るようにつかまれていた肩から、リセルの手が離れた。



 ……いやに警戒してないか? あいつを。



 ジレイを目で追う。

 拘束魔法こうそくまほうによって再び両手の自由を奪われ、生き残っていた兵士に連行されていくナイセストと奴が、れ違う。



没落ぼつらくしてなおその目か。勘違いもいい所だな――――もう終わる・・・んだよ。お前達がリシディア一番の忠臣ちゅうしんだった時代は――」

予想以上に生き残って・・・・・・・・・いて残念だったな・・・・・・・・狸爺たぬきじじい



 そう返され。



 俺はジレイが小さく、とても小さく笑ったように見えた。



 時が急に早く流れ始める。

 あちこちに救助の手が入り、あっという間に人も物も足りなくなっていく。



 俺も足りていない。

 足りていない。

 力も、情報も、そして――――



「――リセル」

「時間が必要だ。私にも、お前にも」



 リセルの目を見る。



 薄緑に輝くリセルの目は――何か恐ろしいものを見るような色で、俺を・・見つめていた。



「……そうだな。時間が必要だ」



 見えなくなってしまった左目に、手を添える。



 どくどくと小さな鳴動を感じながら、ゆっくりと目を閉じた。

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こんなにも行きたかった異世界 -最弱の少年は、ただ復讐のために魔女の手を取り力を求む- はっとりおきな @hato_go_home

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