こんなにも行きたかった異世界 -最弱の少年は、ただ復讐のために魔女の手を取り力を求む-

氷闇――――二度目の邂逅

「があああああああッッ！！！！」

　バンターが唸ると共に。

　ナイセストが、音も無く疾駆（しっく）する。

「……！！」

「ずェェェェェエエエエえええアァぁああああああ！！！！」

　素手で数合をやりあい、――ナイセストが下がる。

　四肢（しし）を砕かれる前に気付いたのは流石だ。

　威力は相当減じているとはいえ、バンターの攻撃と真正面から打ち合うのは現時点では不可能――

「あぐッッ……うゥア……！！！」

「――――」

「……ハハ、」

　――じゃない（・・・・）、のか。

　本当にお前はとんでもない男だ、ナイセスト。

　ならば。

「っ、……？」

「！」

　バンターの頬を、盾の砲手（エスクドバレット）で一発打つ。

　それで十分だった（・・・・・・・・）ナイセストが、再びバンターへ肉薄する。

「餓鬼共ォォ――――ッッ！！？」

　振り被（かぶ）られるバンターの拳の、引き切られようとしている肘（ひじ）を盾の砲手（エスクドバレット）で遮る。

　戸惑ったバンターの大きな隙に、ナイセストは躊躇（ためら）いなく重撃を叩き込んだ。

「ごぼォ……！！？　ぬ、グッ――ッッ！！？」

　腹部への一撃に僅（わず）かに下がったバンターが繰り出そうとした蹴りを、足が地を離れる前に盾の砲手（エスクドバレット）で遮る。

　乱戦の中ではできなかったこと。

　だが味方が一人であれば、戦いの中でも展開する座標を演算できる。

威力の最高点に達（・・・・・・・・）する前に（・・・・）止めれば、盾の砲手（エスクドバレット）も砕かれはしない――――！

「チィィイッッ、何なんだこのッッ！！？」

　顔面を横から蹴り込まれたバンターが壁を破って隣のフロアまで吹き飛ぶ。

　間髪入れず追撃していくナイセストへ、俺は這（ほ）う這（ほ）うの体（てい）で付いていく。

　俺の援護が追い付かない数秒――ナイセストは闇の双剣を抜剣（ばっけん）、バンターと一進一退の攻防を繰り広げていた。

　やはりそうだ。

　ここにきてバンターは、身体能力を著しく減退させている……！！

「遅いぞケイ・アマセ」

「――待たせたな！」

　障壁。

　重撃。

「！？　また――貴様かァァッッ！！！！」

「！！」

バンターの罅割（ひびわ）れの目が俺を睨み。

直後、床はバラバラに砕け散った。

『！！？』

ナイセストと共によろける。ヘヴンゼル学園の時と同じだ。

奴はあの時も、地と建物を破壊して俺達の出鼻を挫（くじ）いた――

「くっ……ナイセスト！」

「邪魔なんだよッッッ！！！！」

「――ッ！！」

　津波のような巨体で俺に影を作るバンター。

　本能的な恐怖から所有属性武器（エトス・ディミ）を錬成し受け止め――――た。

「！！！」

「ッ……！！」

　首へと飛び掛かってくるバンターの手を、氷剣（ひょうけん）で止められた。

　これなら――――！！

「づァああッッ……！！！」

　気合一喝、バンターが氷剣を砕く。

　しかしそれは、零距離で魔法を撃つに十分な間。

「凍の舞踏（ペクエシス）ッ！！」

「ぐああぁッ！！？」

　障壁（しょうへき）を持たないバンターに凍結は真正面から襲い――直後、復帰したナイセストの細く精悍（せいかん）な足が鞭（むち）のようにバンターの腹部を捉え、錐揉（きりも）ませながら遠くへ吹き飛ばす。

　ナイセストが俺の傍（そば）に着地――――、しない（・・・）。

「！」

「遅いな――付いてこれんならもう構わんぞ」

　俺の返答など待たず、最強が床を滑空（・・）する。

　あの男はどうしてそう、一言多い――

「――同族か」

「――ァああアアアアアアッッ！！！」

　テルクス・バージ（旋転空）で足裏（あしうら）紙一重（かみひとえ）空（そら）を飛ぶナイセストが、同じく滞空しているのか瓦礫（がれき）と化した足場などものともせず動くバンターと剣で応酬に突入。

　バンターは手から血を迸（ほとばし）らせながらナイセストの鎌剣（コピシュ）の刃を握り、地を陥没（かんぼつ）させながらナイセストを床へ叩き付けた。

「ッ、何が『もう構わん』――」

「死ねええええッ」

「――だッッ！！！！」

　空へ瞬転（ラピド）、盾の砲手（エスクドバレット）を足場に体勢を整えて更に瞬転（ラピド）――――バンターを体当たりで吹き飛ばす。

「ぐぉぉおあ……！！」

「ッてェ……！！」

「それしきで喚（わめ）くな。急げ」

「ッ――こっちの台詞だ喋（しゃべ）る暇あったら――」

　体中の鈍痛（どんつう）を無視し起き上がり、瞬転（ラピド）で突進。

　動体視力限界いっぱいの動きでナイセストを追い、再度共にバンターへ肉薄。

「貴様、」

障壁。

重撃。

「らァアッッ、」

　障壁、障壁重撃重撃重撃重撃重撃――――

「ああアあぁぁぁッッ……！！？」

『はあああッッ！！！』

　図らず背合わせで腹部を蹴り込む。

　バンターが吐血し吹き飛んだ。

「！」

「――！」

　吐血し、吹き飛んだ。

「効いてる……押し切れる！」

「決めるぞ。ケイ・アマセ」

「はあッ……ハァア˝ッ……ッ！！？！！？！　ぬ、ォア――！？」

　瓦礫から起き上がりかけていたバンターが膝を着く。

　無我夢中で、氷双剣を手に走る。

「チィッ――くしょうが、」

「欲深き魔手（グロトネリィ・プラン）」

「ァ――ァ、ッッ！！？」」

　瓦礫の隙間から溢（あふ）れた蚯蚓（みみず）のような大量の黒手（こくしゅ）がバンターの身体を縛る。

　俺は体面から迫るナイセストに合わせるように、

「が、ぁあああぁぁあぁああぁぁあああああああ――――――――！！！！！！！！！！！！！」

『おおおおおあああああああッッッ――――――！！！』

　バンターの身体へ――――氷と闇の剣を、深々と突き立てた。