3

「相変わらず元気ないな。ホントに大丈夫か?」

「気にするな。普段ふだんと変わらん俺だ」

「普段から元気ないって大事おおごとだろ……医者には今もてもらってるんだっけか?」

「ああ」

「わざわざ学校の外から医者が来てたもんな。そりゃすぐには治らないか……あの時、本当にもうダメだと思ったよ」

「……ああ。俺もだ」

「……俺みたいなのが、こんなこと言うのもアレだけどさ。生きててくれてよかったよ」

「リアクションし辛いことを言うなよ」

「ハハ、俺も言ってみて思ったわ。ガラにもないこと言った、忘れて」

「忘れた」

「ちょっとは覚えてろよ……」

「アトローっ、おはよー!」



 転移魔法陣が発動し、魔素まその白いヴェールが陣を縁取ふちどって舞い上がり、消える。

 途端、周囲が《とたん》さわがしくなる――一日の内、プレジア魔法まほう魔術まじゅつ学校がっこうで一番多く学生が行き交う場所、セントラルエントランス。



 正面から聞こえた一際ひときわ大きな声に、俺とクラスメイトのアトロはそろって顔を上げ、



「うわ!?」

「…………」



 …………視界の大半たいはんを、安っぽいチープなつくりのずんぐりむっくりした着ぐるみにつぶされた。



「なに驚いてんの。そんなコワくもないでしょう」



 まん丸な可愛らしい目でぎょろりとアトロをのぞむ着ぐるみ。

 アトロは顔をしかめて着ぐるみに手を伸ばし、その頭部をスポンとうばい去る。

 果たせるかな、その中からは――――ドレッドヘアを後頭部で一つに束ねた色黒の少女、ケイミー・セイカードが現れた。



「ケイミー。かぶりものしたまま歩くのは危ないって言っただろ」

「あれ、そうだっけ?」



 ヘラヘラとした笑顔でケイミー。

 ああ、眠い。



「あれ、アマセ君は興味なし?」

「なしだ」

「もー。ちゃんとクラスの出し物は手伝わないとだめだよ? ほら、みんなもこんなに――」



 ――ケイミーが親指で、俺とアトロに背後を見るよううながす。



 面倒だな。

 そんなことをされずとも見えている。



「――楽しみにしてるんだからさ。『プレジアだい魔法まほうさい』!!」



 セントラルエントランスに広がる光景。



 日頃は色とりどりのローブの学生が行き来し、にぎやかながらも一定の緊張感を持った空間となる、学びの入り口に相応ふさわしい風情ふぜいを持つ場所。

 そこが今や、ジャンルも大きさも様々な着ぐるみを着た人々が百鬼ひゃっき夜行やこうさながらに跋扈ばっこし、高い天井からは巨大な看板かんばん所狭ところせましとり下げられ、どこを見ても風船や魔素まそで作った水泡すいほうが視界に入ってくる有様。



 人々の賑わいも普段ふだんとは一線をかくした明るさで構内を満たし、今にも意識の飛びそうな頭にやかましいリズムを叩き送ってくる。



 プレジア大魔法祭。



 春光しゅんこうの月、破蕾はらいの月をまたいで行われる、学外までも巻き込んだ巨大な文化祭が、近々ちかぢか開催されるのだ。

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