2




◆     ◆




 ――無機質むきしつな天井が、俺を出迎でむかえた。



「…………、んぅ」



 体が重い。

 最近、やたら甘ったるい夢ばかり見るせいだ。

 おかげで、布団を出るのがひど億劫おっくうで。



 ……これまではこんなこともなかったんだが。

 これも、後遺症・・・というやつなのかもしれない。



 ベッドから下りる。

 なかば眠ったままの身体を熱いシャワーで叩き起こし、タオルで軽く水気みずけを取ると――腕を下ろして目を閉じる。



 呼び覚ますのは、体に根差ねざすもう一つの網羅もうら



「……陽光の風セレート



 魔力回路ゼーレに魔力が通う。

 全身を小さな小さな悪寒おかんと肉体的強張こわばりがけ、指定した座標ざひょう位置いちに――頭部に温かな風が吹く。

 陽光の風セレート。指定した位置に、温かい風を吹かせる初級しょきゅう魔法まほう

 とはいえ、扱いには注意が必要だ。最初、温度調節を間違えて頭皮とうひ全焼ぜんしょうしかけた。後日、温風おんぷうにのたうち回る姿を報道新聞にせられたのは言うまでもない。死んでほしい。

 しかし、それももう……何ヶ月前だろう。



 カレンダーを見て、そうぼんやり考える。

 常に緊張感のあった環境の中、死力を尽くして戦った日々が随分ずいぶん遠く感じられる。中間ちゅうかん試験しけんは筆記だけだったし。



 通学用のかばんに突っ込んであったブロックタイプの携帯けいたいしょくり、水道水で流し込む。

 トイレでは目をつぶり、うろ覚えの呪文ロゴス暗唱あんしょう。…………覚えが悪い気がしたので、服を着ている最中さいちゅうも反復した。

 最近、物覚えも悪い気がする。



「………………起きろ、天瀬あませけい



 そう自分に毒づき、出入り口へ向かう。

 玄関では綺麗きれいそろえられた我がくつが出迎えてくれた。

 そう乱れてもいなかったのに、マメな奴だ。



 今日からは、一日の授業もそう多くない。

 そう予定を組んでいる。



 ……だからこそ、いつまでもボヤけきった意識ではいられないのだ。



 部屋を出て、目の前に伸びるL字型の通路を進む。

 角を曲がってしばらくしたところ、向かって左へと更に廊下ろうかが伸びる通路の壁にある転移てんい魔法陣まほうじんに乗り、陣に魔力を注ぎ――



「よっ、とっ。おうアマセ、おはよ」



 ――グリーンローブの男子生徒が、魔法陣へと飛び乗ってきた。



 全く気付かなかったな。

 たるんでいる。



「……アトロか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る