4



 直前までシータの頭があった場所に、突き込まれた。



「ッ!!!?」

「――――――ッ!」



 紙一重、瞬転ラピドで飛びながらシータを抱え出すことに成功したテインツが空中で捻転ねんてん、危なげなく片膝を着いて着地。胸元に抱きかかえていたシータを左手側から解放し、右手で魔装剣まそうけん――――炎帝剣えんていけんヴュルデを抜剣ばっけんする。



 突きつける。



 対峙たいじする、白い面をした黒装束くろしょうぞくの男に。



「なっ……何、何なの」

「知り合いじゃないんだな?」

「違うわよッ。か、仮装かそうでも」

「いや。あんな仮装は一度も見かけて無――――」



 黒が、抜剣した・・・・



(――――話してる場合じゃないッ!!)



「逃げろッ!!」

「!!!」



 む。

 少年の気合に合わせ振り下ろされた剣が高い位置から振り降ろされた黒装束くろしょうぞくの剣に合わされ、甲高い鋼音はがねと火花が散



 ったのは、ほんの一瞬だった。



「ッ――――!?」



 テインツが吹き飛ぶ・・・・



「くっ!?」



 たたらを踏むようによろけ、慌てて体勢を立て直す少年。



 追撃は眼前。



「く――そ――!!?」



 紙一重、かわす。

 体を大きくらせたテインツの鼻先を黒光りする短い剣がはしった。



(剣にしては随分ずいぶん短い――――最初から暗殺のつもりってことか!?)



「っずあぁッ!!」



 地にした左手をじくに、右足のりを黒にたたき込むテインツ。

 黒は外套マントをはためかせながら後退。

 反動で立ち上がったテインツが改めて剣を構え、



 黒はすでに、別方向へけていた。



「!――メルディネスッ!!」

「ッッ!!」



 声にならない高く短い悲鳴が場を走る。

 瞬転ラピドでシータの逃げ道をふさいだ黒は、



 何のためらいも無く、彼女の腹部を全力でり抜いた。



「ッッッッ!!!!――――――ぁ、」

「………………!!!」



 手を重ね。



 間一髪かんいっぱつ間に合ったテインツが、その爪先つまさきを受け止めていた。



 手を伝う痛みも気にならないほどの怒りが、テインツから黒装束の仮面へ向く。



「……戦えない女の子だぞ!!!」



 黒閃こくせん



(お構いなしとは――外道げどうめッ!!)



 一直線に振り下ろされた黒剣こっけんを剣で受け止めるテインツ。



「逃げろメルディネスッ!!」

「あ――や、う、動けな……っ」

「くそ――っ!?」



 黒装束くろしょうぞくの空いた左手にやみがゆらめく。



(――――頭部を狙ってくる!!!)



 黒の左手の前に、琥珀こはくたまが現れ、



「!」



 ぜた。



 黒装束がひるんだ一瞬のすきを突き、テインツが黒剣を押し返す。

 同時に物理ぶつり魔法まほう障壁しょうへきを展開し、追撃を防ぎつつ魔弾の砲手バレットの爆風からシータを守り、体をひるがえして彼女を抱え、瞬転ラピドで黒から大きく距離をとる。



捕縛ほばくしたいが今はダメだ。まずはメルディネスを安全な場所に、)



 それが、最悪手さいあくしゅだった。



「  、  ぇ」



 ガシリ、と頭をつかまれ。



 鼓動こどうのような黒く強い光が、頭部を丸ごと飲み込んだ。



「テ、テイン……ぅぁアッ!!」



 テインツの胸元から無理やりに引きずり出され、投げ出すように地に放られるシータ。



 テインツは倒れている。

 倒れたまま、ぴくりとも動く気配がない。

 乱れたシータの心では、彼が生きているのかそうでないのかさえ、わからない。



 辛うじて解ったことは。



「ふ――――たり、も。いや……やめて、」



 黒装束くろしょうぞくは二人いて、自分たちは最初からはさまれて逃げ道などなかったのだということと。



「やめてぇぇええええぇぇぇっ」



 助けを求める口さえも今ふさがれた自分は、きっと生きては帰れないだろうという絶望だけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る