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 エリダが周りに補足ほそくを求めるも、答える声はない。

 ロハザーが眉根まゆねを寄せた。



「コーミレイ……あんた、一体どこまで知ってんだ?」

「すべてですが、何か?――――そう、ナイセスト・ティアルバーは動く必要など無かった――いいえ、すで動き尽くしていた・・・・・・・・のです。その思想を良くも悪くも受け継ぎ、目指す理想郷りそうきょう洗練せんれん腐敗ふはいけ負った都合の良い狂信者きょうしんしゃ共が、この場だけでもこれだけ存在したのですから」

「腐敗だの狂信者だの……言わせておけばコーミレイ、テメェ……!」

木偶デク図星ずぼしを突かれてさわがないでいただけます? そんなことをしているひまがあるのなら一秒でも自分の生き様を省みてはいかがでしょうかね、デカブツさんっ☆」

「ッ…………!!」

「……否定ひていはしねぇよ。確かに俺も、ナイセストから直接、目指しているものを聞いたことはない。……この場にいる全員が、たぶんそうだ」

「そう疑問を覚えた者もいたでしょう。ですが、そのおかしさを正そうとする者は皆無かいむでした。……ただ一人、ヴィエルナ・キースをのぞいて」



 数人の視線が、治療房ちりょうぼうへと向けられる。

 治療ちりょう中であることを示す魔石は、依然いぜん赤くともったまま。

 シータがナタリーに視線を戻す。



「その、キースさんが出た『行動』っていうのが……ティアルバーと戦うことなのね」

「ご明察めいさつです。まあ、その行動の原動力げんどうりょくになったのはマリスタや『異端いたん』の存在でしょうが」

「わ――私?」



 面食らった顔でマリスタ。

 ロハザーの顔が曇る。



〝私は風紀委員。そして、あなたの、友達。あなたや、みんなを、もっと笑顔にしたい〟



「ヴィエルナは、学校に笑顔を増やしたいって言ってたんだ。……ナイセストの目指す場所には、笑顔はねぇって」

純真無垢じゅんしんむくって感じですねぇ、泣けてきます」

「馬鹿にしてんじゃねぇぞ性悪しょうわる女ッ」

「おお怖い怖い。幼馴染おさななじみにホの字の弱小貴族じゃくしょうきぞくが牙をいでいる」

「……つくづく思うぜ。テメェの性格は最悪にねじ曲がってるってな」

「すべての『平民へいみん』を下等かとう扱いしていた貴方あなたが言いますか? 二重規範ダブスタかげに本性がけて見えますね、ねじ曲がっているのはどちらでしょうか」

「ちょっと二人ともッ」

「やめてナタリー、ロハザーもよ。ケンカしに来てるわけじゃないでしょ」

『…………』



 システィーナ、そしてマリスタにたしなめられるロハザー、ナタリー。

 二人は互いから目をらさず、やがて同時に目を閉じた。

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