5



 土塊つちくれ蹴散けちらし、烈風と共に空から降ってきたモノ。

 質量を持った雷のように湾曲わんきょくした影が三人を飲み込み、巻き上げた土を雨あられと降りかぶせた。

 絶妙ぜつみょうなタイミングで合わせられた音響おんきょう照明しょうめい。そして土属性つちぞくせい魔法まほうの成せる技である。



「ぷえ、ぺっ……ゆ、ユニア! だいじょぶ!?」

「くっ……まさか、神がここに――!?」



 身構える三人。

 果たして砂埃すなぼこりの向こうから現れたのは、



「――嗚呼ああ嗚呼ああ。果たしてこの身は付いて・・・いるのか、いないのか」

「はッ――――」



 八メートルはあろうかという体長の、白きうろこを持つ長髭ながひげの竜。



「――白竜はくりゅう……!!?」

「嘘……どうしてこんなところに竜種りゅうしゅがッ、」

「嗚呼、騒ぐでない、ない。若人わこうど高声こうしょうは、いやに傷に響く」

「というか、しゃべってるっ……?!?!」



 あんぐりと口を開けるタタリタ。

 身構えたまま固まっているクローネ。

 ユニアだけが言葉をしかと聞き取り、白竜の身体へ目を向けた。



「ッ……ひどい傷……! 血があふれてるっ」

「むやみに触らぬことだ。どんな呪いがおぬしを焼くか知れん」

「呪い?……白竜、あなたは…………神に傷付けられたのですか?」



 竜が、人の拳ほどもある目をバチリとさせ、目玉を一瞬ぎょろつかせる。

 「神」という言葉を聞いたとき、白竜は少しだけそのうろこをザワつかせた。



「ど、どうして神が竜を攻撃するの? そんなこと聞いたことも――」

「タタリタ、待った。――――ユニア。治療ちりょうに必要そうなものは?」

『!!』



 ユニアとタタリタが、驚きの表情でクローネを見る。

 白竜が一瞬目玉をき、やがてその厚い目蓋まぶたわずかに下げた。



「…………愚かな子だ。わたしの傷をいやそうと言うか」

「では受けるのだな、治療を。ユニア」

「う――うん。包帯をありったけ。それとアロエの軟膏なんこう、針と糸を。タタリタは水と清潔な布を。お願いできる?」

「わ――分かったッ! 死ぬほど持ってくるから!」

「了解。針と糸は――通りそうないから、竜のうろこでも縫合ほうごうできそうなものを都合して、持ってくるよ」

「お願い」



 クローネ、タタリタが一時去る。

 ユニアはしばらく前からもごもごさせていた口から唾液だえきを吐き出し両掌りょうてのひらり込むと、躊躇ためらうことなく、いまだ泥のような血を流し続ける竜の傷に触れ、傷口をまさぐり始めた。



「……なんと恐れを知らぬ」

「大丈夫よ。これまでも、神に付けられた傷口から呪いが移ったことなんて、ないから」

「!…………嗚呼、そうか。このような小娘でさえも、駆り出されているのか」

「だから今は黙って。命をつなぐことに集中して」

「…………」



 以降、白竜は何も言わず。

 ユニアによる手慣れた治療が功をそうし、体を回復させていく。



 音と光が、舞台上の時を前に進める。

 彼の隠れ場は、この墓標ぼひょうの丘に決まった。

 いつしか彼らは、友人のように言葉を交わす仲となり――その時は、急に訪れることになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る