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 その不穏ふおんに気付いた者が、一体何人いただろう。



 この場に二つ存在する二枚・・。と、その持ち主。

 その意味するところを理解した者が、何人いただろう。



 ――気付いた者しか分からない速さで、ゆっくりと場の空気がこおり始めた。



「―あっ、」



 システィーナが、口を開いた。



 だが、続かない。

 どんな返しも話題転換も思いつかぬまま、一瞬は長く長い硬直を大人数の場にもたらし、



「ん? そういやマリスタ。オメーは誰とイイイイッッ??!」



 ゴ、とヴィエルナがロハザーのつま先をみ抜く。

 悶絶もんぜつの響く中システィーナが視線を投げると、パールゥはぽかんとした目で飛びねるロハザーを見つめていた。

 エリダとシータが緊迫きんぱくした顔で小さなガッツポーズをヴィエルナに贈り、彼女は目線でそれに応え、



やかましいぞロハザー。どうしてあれだけさけんだ稽古けいこの後にそんな声が出るんだお前は」



 ケイ・アマセは、この上なく最悪なタイミングで、



「お、ケイじゃんお疲れー。ねえ、前夜祭ぜんやさいのライブ一緒に行かない?」



 地雷原じらいげんに、爆弾発言ばくだんはつげんを呼び込んだ。



『――――――――』



 ――――ロハザーが、ビージら風紀ふうき委員いいん男子だんしを見ながらゆっくりと目玉をひんく。

 眉根まゆねを寄せる二人組をよそに、唯一ゆいいつテインツだけが状況を察し、限りなく近い顔でロハザーに応じた。



 パキ、と。



 パールゥの手の中で、二枚のチケットがやたら大きな音をたてた。



「ライ……ブ?」



 こたえようとしたけいは冷え込んだ空気を瞬時に察知さっち、声のトーンと大きさをひとつ落とす。

 素早すばやく場をひとめぐりした彼の目がとらえたのは、今しがたパールゥが背側に回した手に握られていた、マリスタが持つのと同じ二枚の紙切れ。



 まばたき、のち、自面尽じめんずく。



「?? あ……? まさかライブってものをご存じない? じゃあなおさら、ダマされたと思って付いてきてよ。ソンはさせないからさー……――――ん、」



 罪深つみぶかき赤毛は、なおも気付かず善意つみを重ね。



 たっぷりと場をこおり付かせた上で、友人たちへと振り返った。



「え……え? な、なに。どしたの、みんな」

「い――いえその、べつにどうということは――」

「解った」

『――――っ!?!?』

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