追憶――――彼が生きたかった異世界

 きっと助けて、それで、今度こそお前を守ってやると。

 何を犠牲ぎせいにしても、お前に何不自由ない生活を送らせてやると。

 そうして何におびえる必要もない、おだやかな暮らしをしよう。



 なのに。



〝彼は――えっと、そう、外国からの転入生なの〟

〝初めまして。ケイ・アマセという〟



 そんな世界へ続く道にまた、異物・・が転がり落ちてきた。



〝アルテアスさんとは親しいの?〟

〝いや。つい先日知り合ったばかりだ、マリスタとは・・・・・・



 一目見たときから、気に入らなかった。



 引くほどに整った容姿ようし

 貴族きぞくを貴族とも思わない無礼ぶれい態度たいど

 そして――――その嘘で塗り固めた外身そとみに隠した、どす黒くにごった感情。



 隠していたって、僕にはわかるんだ。

 どんなにうまく誤魔化ごまかそうと、お前の目は――――僕から家族を奪ったあの魔物・・と、まったく同じだったから。



 こいつは近く、必ず誰かにわざわいをもたらす。

 そう直感したからこそ僕は、ケイ・アマセという異物いぶつを目の前から排除することにした。

 僕がこの先を生き残っていくために。

 こいつによって災いに見舞われる誰かを、救うために。



 それがどうだ。



 危機ききは、僕が抱いていた危機感ききかんよりずっと先に訪れて――――僕は大勢の仲間が見ている前で、魔法の知識がゼロらしい素人に意表を突かれ、動けなくなるという大失態だいしったいを演じた。

 その上……そうだ。僕が、逆上ぎゃくじょうしてしまったことで――



恥晒はじさらしが。お前は今、貴族と風紀委員、その名を背負う全ての者にどろったんだ〟



 さとった。



 神は、僕にチャンスをくれたのではない。



 親殺しという罪をおかした僕に、更なるばつを与えようとしたのだと。



 積み上げれば、積み上げるだけ、突きくずされる。



 そんな経験を、僕は一体何度り返せばいい?



 何度人生を無に帰せば、何度この身を絶望にひたせば、僕は許される?



 守りたいものなどないくせに。



 ただ復讐のために力を求めているだけのくせに。



 自分のことしか考えていないくせに。



 他人を蹴落けおとしのし上がることなど、何とも思っていないくせに。



 大悪人めが。お前のようなやつばかりがおめおめと生きのさばる。



 そんなもの、世界が許そうと僕が許さない。



 ああいいさ。この生が、もはや罰されるためだけの命であるというのなら――――もう、先のことなど考えるのはよそうじゃないか。



 死ね。



 お前をおとしおとしいれ、お前が積み上げた何もかもを奪って破壊して、果てに僕がお前を殺してやる。



 地に落ちたと言われようと構うものか。

 血は争えない。僕はあの魔物・・の息子なのだ。

 そして――こうしてにごった眼をしていれば、きっといつかむかえが来る。

 罰すら生ぬるいと気付いた神が、きっと僕を殺すだろう。

 あの日足元に転がった炭クズのように、僕も成り果てるだろう。



 それでいい。

 もう生きている理由などない。

 


 ただお前に、考え得るすべての不利益ふりえきと不幸をもたらすために――――――そのためだけに、僕はここへ戻ってきたんだ!!!!



 そう、思って――――



〝兄さん〟

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