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「大丈夫ですか、キスキルさん!」

「リリスちゃん!!」

『!』

「ケ――ケイ・アマセっ。お前、少し有名になったからって煮え上がってんじゃねーぞ! 今風紀委員に連絡してる、即刻そっこくこの会場から出ていって――」

「ケイ君っ!」



 スタッフらしき男を押しのけるようにして現れたのはパールゥ。

 彼女はマリスタを、そしてリリスを見て、どこかムッとした視線を再度マリスタに向けた。



「どういう状況?」

「わ……解んないんだよ、私も。ケイが急に飛び出すもんだからさ」

「……どうしてこんなことしたの? ケイ君」

「あ……いや、それは……」

「ありがとう。そこまで熱心に応援してくれて、嬉しいです」

『!!』



 赤色と桃色が小さく目を見開き、愛依めいに視線を向ける。

 黒のツインテールを揺らし、妹は目を細めて笑った。



「でも、モメ事はやめて欲しいかな。みんなには、ずっとわたしを見ていて欲しいから」

「…………」

「け、ケイ。謝っときな、とりあえずっ」

「あ、ああ……すまない。俺も、その。何がなんだかよく、解ってなくて」



 マリスタの助け舟に乗り、咄嗟とっさに嘘を吐く。

 愛依めいはニコリと笑った。



「約束してくれますか? この件はここでお終い、今後に引きずらないって」

「あ、ああ。帰り際に一通りびる」

「ありがとう。じゃあ、私からもスタッフの方々には言っておきます。この後のライブ、楽しみに待っていてくださいね」

「い、いいのリリスちゃんっ」

「うん。出来るだけ多くの人に、わたしを見てもらいたいから。先生も、そういうことで許していただけますか?」

「あ――ああ。お前がそれでいいというなら……」



 スタッフの少女の言葉にも、愛依はそう笑顔で応じ。

 そのまま、マリスタとパールゥに視線を向けた。



「あなた達、アルテアスさんとフォンさんでしょ?」

『!?』

「知ってる。今度、クラス合同の劇、するんでしょ?」

「あ――え。り、りり……イヤ。き、キスキルさんも……」

「同学年だし、リリスでいいよ」

「りりす??!?!? や、いやいやいや! 愛称でなんてそんな! ハハ!」

「……よくご存じでしたね。私達が劇をすること」

「知ってるよー。『英戦えいせん魔女まじょ大英雄だいえいゆう』、私大好きだから。それに、実技試験じつぎしけんを騒がせた有名人が二人もいるんだもの。思わず注目しちゃった。絶対観に行くから、そっちも頑張ってね」

「~~~~~~ッッッ!!?が……か゛ん゛は゛り゛ま゛す゛!!!!」

「あはは。そんなに感激してくれると嬉しいな。私も頑張るね」

「う゛ん゛っっ!!! がんばっでねぇ!!!」

「うんっ。――それじゃあ、ごめんね。心の準備をしたいから、もう少しだけ会場で待っていてね」

「はいっっ!! さあパールゥ、マリスタ! 会場に戻りましょっ」

「う、うん」

「……分かった」



 ――――何の素振りも無い。



 目の前の天瀬愛依あませめいが、天瀬愛依である素振りを一つたりとも見せない。



 本当に、違うのか。

 違ったとして、こんなに似るものなのか。

 見れば見る程生き写し……いや正確に言えば、



〝兄さん〟



 夢の中に現れた、あの愛依と同じ。



 ちょうど……そう、愛依が成長していれば、こんな風な……



「ケイ! 行くよっ」

「!――あ、ああ」



 陽だまりのような笑顔に見送られ。

 俺は、引っ張られながらその場を後にした。

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