Bosom 闇せまり光さす異世界



『――、――――、――――、――――――――――――お前にたくそうとしている。自分のためにしか動かないお前に、あれだけ痛めつけたお前に、ティアルバーさんに向けるべき僕のけんを託そうとしている……っ!!!!』



 テインツが、えた。



〝                                 〟



 その絶望に満ちた声を、俺はずっと前に耳にしたことがある。



 その慟哭どうこくを、俺はずっと前にこの口から叫んだことがある。



『………………たのむ・・・。ケイ・アマセっ、』



 少年がうつむいたまま近付く。



『僕を…………僕を、助けてくれ・・・・・



 少年が俺の腕をつかみ、両膝りょうひざくっし地に着ける。



〝みんなであそびたいから……だから、たすけて〟

〝ケイ。お願い・・・



〝居るじゃありませんか。ナイセスト・ティアルバーの心をあんなにもさぶっている者。今のティアルバーさんと話が出来るかもしれない人物が、一人だけ〟



 ――――声が、視線が、さる。



 これで何度目だ。



 何度言われようと、俺は俺のためだけにしか戦わないのに。



 俺がこれだけ拒否しているというのに。

 それでもお前たち世界は、何度も何度も、何度も――――――



『ナイセスト・ティアルバーを倒してくれッ……!!!!』



 テインツと目が合う。

 きっと顔を上げるつもりはなかったのだろう。奴は俺の顔を見た途端とたん目をらし、投げ出すようにして俺から手をはなして距離きょりをとった。



『…………そして僕はまた、お前にそれを話さないんだ。お前には届かない言葉を使って……本当にどうしようも無い、意気地いくじなしで臆病おくびょう卑怯ひきょう勝手がってで器も小さい、ちっぽけなちっぽけな、クズ野郎』

「…………」

『それに、お前は他人を背負って戦うような奴じゃない。わかってるさ。はは――――お前のような、敗北はいぼくを知らない人間にはわかりようがないことだ』

わかるさ』

『さあ、せめて死に場所をくれ。僕を殺――――――、』



 ――――テインツがゆっくりと、目を見開く。



 俺は、もう一度応えた。



解ったよ・・・・、テインツ』



 ――――テインツの顔が、みるみる羞恥しゅうち憤怒ふんどと絶望と、小さな喜びにうつろう。



『おま、えっ…………リシディア語が、もう……っ!??!』

『俺にも妹がた』

『な……何?』

『だから――これきりだ。これ一度だけ』



 戦士の抜剣アルス・クルギア



『もう一度だけ、背負ってみよう』

『……………………』



 ……テインツから、笑みがこぼれた。

 消えかけていた出入り口の炎が勢いを取り戻し、燃え盛る。

 奴の手でれ下がっていたつるぎが、しんを取り戻したかのように上を向く。



 火が、再びともる。



「――どこまでいっても隠し玉。お前はやっぱり――――ムカツク奴だ、ケイ・アマセッ!!」

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