こんなにも行きたかった異世界 -最弱の少年は、ただ復讐のために魔女の手を取り力を求む-

錬成――――最後に立つは剣士と剣士

◆ 　　　　◆

「――――戦士の抜剣（アルス・クルギア）」

　時間にして、わずか一瞬（いっしゅん）。

　圭（けい）の手に、所有属性武器（エトス・ディミ）が握られた。

「な……なんなの、あの剣」

　会場の二十二層に行こうとしてファレンガスと取っ組み合いをしていたマリスタが、画面を見てつぶやく。

　その氷剣（ひょうけん）の形状は、これまで圭が持っている姿を見たことがないもので。

　だからこそ、同じ場にいたロハザーは驚きに目を見開いた。

「……どういうことだよ、アマセ。それは……っ」

「な、なにロハザー。知ってるの？」

「や、知ってるっちゃ知ってるが……」

　ロハザーが画面に目を凝（こ）らす。

　確かに、彼とてそれ（・・）を矯（た）めつ眇（すが）めつ見た訳（わけ）ではない。

　だが、その特徴（とくちょう）的（てき）な形状を見間違えようはずもなく。

　そう思ったのは、彼だけでもない。

「……ねえ、ビージ。あれ、まさか――――」

「ああ……間違いねぇ、でもなんでだ？　なんで奴が――」

　ビージが戸惑（とまど）いの視線を向ける先。

　圭の手に握られた氷剣は、

「――テインツの魔装（まそう）剣（けん）を錬成（れんせい）してんだよ――！！」

　テインツ・オーダーガードの魔装剣と、まったく同じ形状をしていたのである。

「――フ、フフフ……！」

　ナイセストが笑い、片手の所有属性武器（エトス・ディミ）――漆黒（しっこく）の鎌剣（コピシュ）を構え、飛んだ。応じ飛び退（すさ）る圭。

　後退した圭に威力（いりょく）を減らされたナイセストの一撃が上に流され、弧（こ）を描き宙（ちゅう）を舞ったナイセストが危なげなく着地する。

　肩で息をする二人。

　テインツ（圭）の剣は――刃こぼれ一つ起こすことなく、圭の手に握（にぎ）られていた。

『…………！！』

　ビージら、観覧席（かんらんせき）の貴族たちが――テインツとともに「貴族（きぞく）至上（しじょう）主義（しゅぎ）」を謳（うた）っていた貴族たちが、一様（いちよう）に目を見張る。

　ナイセストの一撃を受けても、異端（いたん）の剣は折れなかった。

　それはつまり、その所有属性武器（エトス・ディミ）が「完成」しているということを意味する。

　所有属性武器（エトス・ディミ）は、通常の武器に魔法の属性や自らの所有属性（エトス）の力を付加して戦える、知らぬ者からすれば大きな脅威（きょうい）になり得る武器だ。

　しかし反面、象（かたど）った武器の知識・構造（こうぞう）理解（りかい）をしておかなければ、真に迫（せま）った力を発揮（はっき）できないという難点（なんてん）がある。

　象る武器の構造を理解し、触れたときの感触（かんしょく）を知り、形状・材料を事細（ことこま）かにイメージできなければ――――外見だけを模（も）した、ともすれば外見さえ繕（つくろ）えていない「未完成品」を生み出すことになる。

　異端（いたん）の剣はナイセストの一撃を耐えた。

　それは圭がテインツの剣を、事細かに理解しているという事実を示し。

　貴族たちは、それを認められなかった。

　あの金髪の男を「異端（いたん）」と呼び、「身の程を弁（わきま）えぬ愚（おろ）か者」と最初に「施（ほどこ）し」を与えたのは他ならぬ、テインツなのだ。

　それを、圭が完璧に錬成（れんせい）したということは――