13

「明日以降も舞台に立つつもりなのでしょうし、どの道休息は最優先でしょうが。それとも――実は構ってほしくてそこにいるのですか?」



 システィーナ、エリダの非難の声を一切無視し、ナタリーが言い切る。

 圭は振り向くことなく応じ、足を引きずるようにしてその場から歩き去った。



「――――――」

「ココウェル?」



 遠巻きにその様子を見つめていたココウェルが、瞳をあやしく光らせてその後を追っていく。



『――――――――』



 見はせずとも、その場の誰もがそれを感知していた。




◆     ◆




 いつの間にか、明かりが必要な程に日は落ちていた。

 よろよろと歩きながら、人気ひとけのない袋小路の闇へと歩みを進めるけい

 その背後を絶妙な距離きょりでつけながら、両目を嗜虐心しぎゃくしんでいっぱいにしたココウェルが続く。さらにその背後には当然、感情の読めない瞳でアヤメが続く。



 圭は突き当たった壁を、八つ当たりのように両手で叩き――――壁を支えに、膝からくずれ落ちた。



「………………」



 ココウェルが、様々な感情がないまぜになった目で圭の姿を見つめる。

 暗闇と、遠ざかった小さな喧噪けんそうの中、嗚咽おえつともうめきともつかない少年の声が、少女の鼓膜こまくを震わせ。



 やがて、王女は近付いた。



「何よその姿。無様にもほどがあるんじゃないの~? 大英雄だいえいゆうさァん?」



 圭は動きを止めこそしたが、こたえない。

 いや、もはや応える気力もないのか。王女には判断がつかない。

 ココウェルはにんまりと笑った。



「おいおい、王女の問いに答えないなんてどういうつもり? それとも、答える元気も無いのかな? そりゃそうよねぇ、ただでさえ友達の少なそうなあんたが、その数少ない友達にさえ見放されて突き放されたんだもんねぇ。面食めんくいなファンだって二、三人つきそうだったのに、あんなに人前でダサい姿見せられちゃったらねぇ。誰だってアンタに近寄りたくなんて無くなるわよ。あわれねホント」

「……お前に何がわかるんだ」

「誰に口いてんだわきまえろ、まだわたしがしゃべってんだ。拝聴はいちょうしろ病人が――つか。わたしが黙ったところで今のあんたに何ができるのよ。歩くのも精一杯せいいっぱいなクセして偉そうなクチ――」

「そうさ。俺はもう何もできない」

「――――」



 ココウェルが目を光らせ、言葉を切る。

 けいは体を壁に向けたまま、両手で頭を抱えて叩き、やり場のない怒りをぶつける。彼の手の震えが、ココウェルの目にはやけに大きく映った。



「なあ、俺は何か間違ったか? 俺はただ、自分に出来る精一杯のことで皆に応えようとしているだけなのに。誰もそれを分かってくれない。みんな勝手に俺のことを好きになって嫌いになって、そして離れていく――――その上こんな病気まで――――俺が一体何したってんだよ。なんで俺がこんな目にわなきゃいけないんだよ!!」

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