2
「……
「最近では、アルテアスさんも彼から離れたって話だよ」
「むしろ遅すぎるくらいだろ。アルテアスの奴も、ようやく自分の立場を理解したって感じだ」
「上から目線が過ぎるよ、ビージ。
「おっとそうだった。いけねぇいけねぇ……ついあの『異端』と同列に見ちまう。本来、あの人はそんな
「そろそろ、学校中の人間たちが気付いてくる頃だと思うよ。『平民』狩りも加速してる、先生たちも何も言えない。僕らは確実に
「そして最後に、
「そう遠くないと思うよ、その未来はね。キースさんは知ってる? 今から二カ月と少しで始まる実技試験――――どうやら、『異端』の相手は全て風紀委員になるそうだよ」
「!」
「あくまでウワサだけどね、そんな情報が出回ってる。ティアルバーさんは
「腕が鳴るよなぁ……もし本当にそんな話が出たら、俺はあの野郎と一回戦で当たるように願い出るぜ」
「今から
「ったりめーだろ。あのクソ野郎、公衆の面前で死ぬほど無様な負け姿
「彼の、相手が…………全員、風紀に?」
「ビビりあがっちゃうかもね、奴がこの噂を聞いたら。今日にも魔術師コースに
「ああ、そういう可能性もあんのか。つまんねぇな、男なら最後まで意地を張り通せってんだ」
「もちろん、実技を受けない可能性もね。そういう選択も、残念ながらできてしまうから」
「その時は認識を改めてやんなくちゃな。身の程を
「……それ、確かなウワサなの?」
マリスタは
ビージは弱っている彼女を見て、どこか
「おお、アルテアスじゃねぇか。ああ、風紀の幹部やってるダチから聞いた話だから間違いねぇぜ。ホントにそうなるかは置いとくとしてもよ」
「……どうして?」
「どうして? どうしてって、そりゃあの
「ようやく、あなた自身の
「たぶん、この状況を。彼は……
唯一、マリスタの言葉を正確に
「……自分を、鍛えることが出来るから」
「ね。ねえ……ちょっと。聞いてる?」
マリスタの言葉に、ヴィエルナがコクリと
「……あいつ、ホントに神様より強くなるつもりなのかな。その――――目的のために」
「たぶん、そうだと思う。それ以外、関係ないし、興味もないんだよ」
「目的? おいおいあんたら、何を話してんだよ? 全然分かんねぇぞ」
「……関係無くないよ。状況考えたら分からないかな? あいつこのままじゃ、ホントに学校に居られなくなっちゃうかもしれないのに」
「きっと、それでも。関係ないって、言うんだろうね」
「意味分かんないっ。だって、そんな……人は一人じゃ生きられないんだよ? なのに……誰とも関わらなくていいとか、そんなのさ。おかしいじゃん。人の生き方じゃない」
「彼はたぶん……
「人だよ! 人だからこそあいつは、ああして……大切だったもののために、何もかも捨てて『
マリスタが止まる。
ヴィエルナがわずかに視線を下げ、その言葉を繰り返す。
「…………
「…………あいつ。『目的』を果たした後は、どうなっちゃうのかな」
「ねぇアルテアスさん、キースさん。何なの、何の話なの? 僕らにも分かるように話してよ。悩みなら聞いてあげるからさ」
「そうだぜ。俺達はもう仲間なんだからよ!」
圭の行く末に待つ闇を悟り、マリスタとヴィエルナが言葉を切る。ヴィエルナは目の前の本の山に頭を預けるように
「……マリスタ。私、『誰かの味方』になりたいの」
「へ?」
「だから、義勇兵コースなの」
「お、おおう……?」
「きっとケイ、止まらないよね」
「う、うん」
「あなたは、彼と一緒に居たい?」
「へっ? あぃや、あの。ヴィエルナちゃんさっきから、どういう意味で質問――」
「私は、一緒にいたいと思う」
「ひぇっ?! そ、なン、びえるなちゃん?!」
「でないと、彼。本当に、
「…………」
「あのままじゃ彼、きっと世界に牙をむく。だから誰かが、止めてあげなくちゃ。そのために――彼と一緒に、並び立つ人、必要だと思うの」
「……
ヴィエルナが再び、コクリと
「……おいおい。まさかそれ、『異端』の話か?……ちょ、ちょっと待ってくれよ、アンタら。一緒に居たい? 世界に牙をむく? 『止めてあげないと』だと?」
「…………そんなの、」
無理だよ、私には。
圭と一緒にいて、そしていざという時は止める。ヴィエルナがそう言えるのは、彼女が実際に圭と戦うだけの力を持っているからだ。
マリスタにはそんな大層なことが言えるだけの力など、まったく
(……大体、私は魔術師コースだし)
両親に認められるため、アルテアス家を背負って建てるようになるため、マリスタはプレジアへとやって来た。
彼女にとってそれは人生において割と
だが。
(……あれ)
実感の持てない使命と、たった今芽生えた、ただの衝動に近い思い。
それらは不思議なほどに
――故に。
「…………そっか」
「?」
「ヴィエルナちゃん。私も、ケイと並び立ちたい」
マリスタは、くるりと
その目に灯った
「あ、アルテアスさん? どこ行くの、話はまだ途中で――」
「答えろってんだよキースッ!! テメェら、一体あの『異端』の何を知ってる!? まさか、ホントにあいつに洗脳されてやがるってんじゃ――」
「……洗脳されてるのは、もしかして。彼の方なのかも」
「は!!!??」
「ビ、ビージ落ちついて」
「だとしたら、」
声を荒げるビージを押さえるチェニクを置き、ヴィエルナは図書室のカウンターへと移動していく。
その顔は、小さく小さく
「解いてあげなくちゃ。ね、マリスタ?」
◆ ◆
「……何だと?」
「
肩を
よく見れば彼の周囲には、風紀の
そして、あの一見か弱そうなヴィエルナ・キースも……世界で一番小さなゴリラみたいな女だったぞ、あれは。こいつら、本当にヴィエルナの実力を知ってるんだろうか。
何はともあれ、こいつらもナタリーの流した嘘にさんざっぱら
そういえばあいつといい、こいつといい。ご丁寧にちゃんと
……意外と配慮の行き届いた奴らなんだろうか。
まあ、大方まだ俺が使えないと思ってるんだろうが。
だから
「……あれはデマだよ。俺は突然ヴィエルナさんに勝負を挑まれて、一方的にボコボコにされて負けたんだ。上級者と試合が出来るまたとないチャンスだからと、魔力切れまで
「
「え。あ、
「アァ!? ワケ分かんねーこと言ってんじゃねーぞ!」
……面倒な。
こいつ、図書室の前の時は結構
こいつにとってヴィエルナとは、そういう存在なのかもしれん。
しかし、なんというか……どうも俺自身に緊張感がない。
人の心の
〝お前は魔王になるんだ、圭〟
――馬鹿め。
「……もういい。邪魔だ、
「……ァ?」
そうだ。
今俺に必要なのは、「訳分かってもらうこと」じゃない。
「ウンザリだと言ったんだ。貴様等馬鹿共の相手をするのはな」
「な――――何だと?」
「
「――――――、、」
どうせ悪なら、とことん悪くなれ。
「もう
!!!!!!!!!!??????
――一体、どれだけの人数が聞き耳を立てていたのか。
プレジア魔法魔術学校、エントランス。学校の各層へと移動する転移魔法陣が複数存在するこのエリアの空気が、一瞬にして緊張と
はは。
もっと邪悪に。
「お前達が何を
もっと高らかに。
「全員で来ると良い。全てぶつけてこい。俺をここから追放してみろ。家柄を鼻にかけるしか能のないお前達出来損ないに、そんなことが出来るものなら」
魔女と結び、文字通り「世界」を壊す、最大最悪の悪党。
人々を恐怖と怒りに包む、絶対的強者。
〝影に至るまで焼き尽くしてやるからよ――――!〟
魔王となれ、天瀬圭。
「あの女は手始めに過ぎんぞ、貴族クラブ共。この俺を怒らせたんだ、誰一人助かると思うなよ。
てめえええぇぇぇぇぇええぇェェェエェエェェェェエエッッッッ!!!!!!!
俺の息の根を止めんと突っ込んでくる怒り狂った腕、腕、腕。
ローブの袖部分が引き
腕は俺の
野次馬の中から悲鳴が上がり、いつかのように風紀委員を、教師を呼べという声が聞こえてくる。
例に
「テメェ……分かってんだろうな。今後ひと時たりとも、この学校で安息の時間があると思うなよ。『
「……
笑う。視線がぶつかる。
もうすっかり慣れてしまった、殺気という圧。
これで、練習相手には永久に困るまい。
「おい、何をやってんだお前達ッ!!」
黒いローブの下に、茶色の服装がよく似合っている男――歴史担当のファレンガス・ケネディ教諭だ――が俺とロハザーの間に割って入り、たった一人で十人近い集団と俺とを引き
俺はローブを整えて
「おい待て、アマセ」
「解消の無い小競り合いです。落ち着いて話したところで解決しませんよ。失礼します」
「何が解決しないだ悪魔が!!!」「恥を知れ!!」「覚えていろこの借りは億倍にして返してやるッ!!「テメェ逃げるな今すぐに俺と闘えッ!!」「生きて実技試験を終えられると思うなよ貴様「お前は風紀だけではない、ナイセスト・ティアルバーにも宣戦布告したのだ!!」「勘違いもいい加減にし「
――――心地よい雑音は、すぐに
「……顔、引き
手でローブの
胸倉を掴まれ引っ張られたことで、過度な負担がかかったのだろう。
直すのはそう手間じゃない。普通にしていれば、そう目立つこともない。
まったく。
「……上等だな。一歩踏み出した証としては」
「……精々利用させてもらうぞ。風紀委員会」
◆ ◆
「……今、なんて言ったの? マリスタ」
「も、もうっ! 何度も言わせないでくださいよ先生っ――私は、」
「マリスタ・アルテアスは、義勇兵コースへの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます