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「なにしてんだお前」

「落ち着いてください」

「なにしてんだって聞いてンだよッ!!!」



 われた髪をアヤメの体勢が崩れる程に引っ張るココウェル。

 サイファスはマリスタが表情を怒らせるのを見て肩に手を置いた。



「ココウェルを守るべく、やむなく魔法まほうを使いました。結果失格になりました」



 ココウェルが再びアヤメのほおを張った。



「待ちなさいよッ!!」

「マリスタ、」

「うッせェザコッ、話しかけんなッ! 出来損ないの教育中なんだよッ!」

「言うに事欠いて出来損ないですって!? そんな」



 頬を張った。



「――やめろっつってんで――」

「はいまたしゃべったァ!」



 頬を張った。



「っ!?」

「お前がしゃべるたび一発張るから!! コイツが余計に叩かれたのお前のせいだからっっ!!!」

「っ…………!!!!」

「少しはマトモに考えて話せンのバーカッ!! 言い返せねーからって暴力に訴えんな糞野郎くそやろう! 死ねブスッ!! ムネなしっ!! 男女おとこおんなッ!!」

「っっっっっっっっっっっっ」

「……落ち着けマリスタ。今何を言っても、」

「表情にも出すなメンドくせーなお前ッ!! もういっぱァつ!!!」

「……あいつを付けあがらせるだけだ。こっち向いてろ」

「…………………………」



 肩が震えているのを察知されぬよう、マリスタの両肩に手を置き、サイファスがココウェルの向こうを見る。



「ハッ、取り巻きの男もキッモ!!! アマセとかいうやつはわたしになびいてるし!!! 負け組の負け犬同士で一生そうやって傷めあってろバーーーーカ!!」

「あっちが出口だな。行こう、マリスタ」



 ココウェルを一切無視し、マリスタの背に手を回したサイファスが二人とすれ違う。



「よくやった、うつけ」



 そんな言葉が聞こえたのは、その時だった。



「――!?」



 体は出口に向けたまま、マリスタが右肩越しに後ろを見る。

 そこには相変わらずココウェルに怒鳴られる、アヤメの黒い背中だけがあった。



「…………」

「? 行くよ、マリスタ」

「……う、うん。わかってる」



 サイファスの横を歩きながら、マリスタは今の言葉を反復する。



「『よくやった』……?」



 その言葉は、間違いなくアヤメの声に乗って聞こえてきた。

 「よくやった」とは一体何のことを言っているのか、マリスタにはまったく見当が付かない。



(叩く王女を止めようとはしたけど、止められたわけじゃないし……それに)



〝よくやった、うつけ・・・



「馬鹿にされてるよね!?」

「うわっ?! な、なんだよ急に。バカに?」

「あっ、いや。あは! なんでもないの、気にしないで!…………おかしいよねやっぱね……最初会った時もあんな・・・感じだったのに……」

「あんまり思いつめることないって。あの歳になってもろくに感情のコントロールも出来ない、可哀かわいそうな奴だ」

「え? う、うん。そうよね、かわいそうな……」



〝分かった風な口を利きやがって――――!!!!!!!〟



「……かわいそう、か」

「どうした?」

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