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 脇腹辺りにくすぐったい感覚。

 と同時に――――マリスタが、背伸びをするようにして更に……顔を、寄せてきた。



 ――――口付けの、最中であったことを思い出す。



 せというのだ。台本にない動きをされたら動揺が感染うつって……



 …………そんな思考がブーメランであることを理解したのは、俺とマリスタをおおう光が消えてからしばらくしてのことだった。



 台本を思い出し、慌てて顔を、ゆっくりと離す。



 こうして顔を見合わせるのは、もう二十回目ほどだろうか。



「………………きっと生き残ろう、タタリタ。この戦いを、一緒に生き抜こう」

「………………うん。みんなと……あなたと一緒なら、きっと乗り越えられる」



 そろそろ、俺も慣れてよさそうなものだ。



 まったく。



 ――この二人のセリフから、このシーンを見ていたユニアも、戦いへの決意を、そしてタタリタとクローネの恋路を応援することを、そっと決意する。

 己の恋心には、そっとふたをして。



 ――何かを得るばかりの物語だった第一幕は、ここで幕を閉じ。

 何かを失うばかりとなる第二幕が、始まっていく。




◆     ◆




『これより、十分間の休憩きゅうけいに入ります』



 ざわつきと共に、明るくなる客席。

 約五十分間の第一幕が終わり、幕間まくあいの休憩時間となった。



 しかし当然、舞台裏の慌ただしさは変わらない。



上演時間ランタイムは?」

「四十七分。少し巻いてるくらいよ」

「ッし。順調順調!」

「油断しないで。甲冑かっちゅうぐみ着崩きくずれないか確認よ!」

「はーい!」

「はいっ」

「ああ」



 マリスタ、パールゥ、俺。そしてカンデュオ役の男子生徒が、手慣れた調子で甲冑――――勿論もちろん、材質は鉄ではなく衣裳いしょうぜんとしたものだ――――を着こんでいく。



 舞台裏ぶたいうらの小道具・衣裳の整理、メイク直し、移動、段取だんどりの最終確認。

 出演が第一幕のみの者もいるが、その者は第二幕から魔法まほうによる演出を補助したり、舞台セットのギミックを動かすのを手伝ったりする。

 基本的に誰も休みなく動き回るのが、舞台裏のいつもの風景だ。



「んしょ、と。どうケイ、後ろのボタンちゃんと止まってる?」

「ん? ああ、どれd――」

「私が見たげるっ。はい大丈夫、なんにも見えてないよ」

「あ、う――うん。ありがと、パールゥ」

「どういたしまして」



 話辛そうなマリスタに、つんけんしているパールゥ。

 こいつら、いつになったら仲直りしてくれるのだろう。

 原因が俺だと思うにつけ、呪いの症状に差し障っている気がする。



 ――そう、呪いの症状に。



 第一幕を演じ切り、確信した。

 俺は今、呪いを再発している・・・・・・・・・

 恐らく、二幕で待ち受けるゼタンとの戦いを、俺は――。



「…………」

「ケイ君。剣は?」

「え? ああ。そばに置いてるよ」

「次、すぐ殺陣たてのシーンだよ。ちゃんと持っておかないと」

「そうだな、ありがとう――」

「私」

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