13

「ふざけんなッ!」



 一人の怒号。

 声の主――ビージはガイツの視線に一瞬ひるんだものの、筋肉と怒りを奮い立たせて口を開く。



「先に横暴働いてんのはアンタらだろうがッ!! それが俺達にだけルールを押し付けようってのはどういう了見なんだよッ!!」

「口を慎め義勇――――「そいつの言う通りだッ!!」「権威けんいかさに着て調子乗ってんじゃねぇッ」「引っ込めアルクスッ!」「無法には無法だッ!」



 ペトラの声が、多数の生徒達によって押し流される。

 ガイツも再度口を開こうとするが、渦巻き始めた義憤ぎふん怒声どせいは決して彼の言葉を通さず、アルクスに主導権を渡さない。

 他のアルクス隊員たちも手が出せず、押し寄せる声の前で歯噛みしているのみである。



 オーウェンはそんな中にあっても、娘から――いな。中心に居る一人のプレジア生徒から、目を離そうとはしなかった。



「学校長。どうか勧告書かんこくしょに対する返事を聞かせてください。拘束された人たちを、私達の学祭を返してください。お願いします」



 頭を下げる赤毛の少女。

 学校長が視線を上げた先には、二人のことを固唾かたずを飲んで見守る生徒の、教師たちの姿。



 ――やがて、学校長は短いため息をいた。



「……手段がどうあれ、彼ら拘束者こうそくしゃには拘束するだけの理由がある。故にその要求を呑むわけにはいかない」

『!!――――』

「だが」

「――――え、」



 マリスタが顔を上げ、驚きに目を見張る。



「これだけの数の意見がこれだけの熱意をもって届けられた事実を、捨て置くことは最早出来ない。ここでこの要求を跳ね付ければ、プレジアそのものへの評判にぬぐえない傷がつきかねない。ひいてはアルクスの今後の質へも直結しかねない。故に提案しよう。妥協案だきょうあんを」

「だ――妥協案、ですか?」

「まず、クリクター・オース、並びにフェイリー・レットラッシュの拘束こうそくは継続する。しかし、ケイ・アマセに関しては――――プレジア大魔法祭だいまほうさいにて行う、当人が参加するもよおしの前後二十分の間、という制限付きで拘束を解く」

『!!!』

「そして、既に経過してしまった拘束時間によって生じた、当人が参加する本日の催しへの多大なる不利益をかんがみて――――プレジア大魔法祭の期間を、当初の期間通りの三日間に戻す」

「学校長!!」

「これならばどうかな? マリスタ・アルテアス」

「――――――――――、あ、えっと……」



 マリスタが視線をナタリーに送る。

 ナタリーが、かぶった大きなニット帽を小さくたてに動かすのを見て――――少女は今にもはち切れそうな喜びをたたえた表情で、学校長の提案に大きくうなずき、一礼した。



「提案を受けますっ――――ありがとうございますッッ!!!」

『ありがとうございます!!』

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