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◆ ◆
マリスタの言うことには今日は休日らしく、学校内にそれほど人は多くない……休日、ということでついでに
しかし、リシディアに三校しかない魔法学校だと言うだけあり、図書室はそこいらの図書館――といっても、今や
食堂も見慣れない食材こそ
「……!!」「……?」「……、……」「?!……っ」
「――――?」
視線を感じ、振り返る。
数人で固まっていたローブ姿の男女混合グループと目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。第二層、生活区画。食堂や図書室、医務室に売店等、プレジアの中で最も人の行き来が多い階層でのことである。
よくよく辺りを見回してみれば、なんだか
「マリスタ。俺は、何か常識外れな格好か行動をしてるのか? 妙に視線を感じる」
「い、今更ですか……? はぁ、仕方ないなぁ。今後のためにマリスタさんが教えたげるわ、ケイ君。ケイ君は、通りすがりの人が見惚れちゃうくらい、すんごぉーーく整ったお顔をしてるんです。イケメン指数
「いや、女子に注目されるだけなら
「え何その余裕」
「余裕って……俺が言ってるのは、いやに男からの視線も感じるってことだよ」
「え……?」
言われてようやく、マリスタがハッとした顔をする。今更なのは誰だよ。
……って、そうか。よくよく見れば、こいつ。
言動や振る舞いでその魅力は半減どころか八割減程していると思うが、それを差し引いても、マリスタはそこいらの女子では比較にならない程整った顔立ちをしている。
パーソナルスペースにずけずけと踏み入る無神経さや、例えズレていようと他人と積極的に会話をしようとする姿勢も……マリスタ・アルテアスの
何が言いたいかというと。こいつらは恐らく俺を見ているのではなく――――俺のような、見たこともない
四大貴族である上に、見る人の視線を釘付けにする
大きな学校であれ、注目の的になるのも十分
「……な、なるほどなるほど。なはは」
何やら一人で納得し、苦笑いしているマリスタ。こいつもようやく、己の影響力を理解し始めたのかもしれない。マリスタはバツが悪そうに手で頭をかき、
「大変だね、ケイったら。男の子にも好かれるなんてさ。少し分かるわよその気持ち」
「どの気持ちだよ」
何一つ理解していなかった。
「さてと! これで一通り案内は終わったかなぁ。あとは、外出した時にでも教えたげるよ。一応、近くに町もあるからさ」
「町か……外出も出来るのか」
「許可取ればね。といっても、ここだけで大体の生活はできちゃうから、あんまり出る人多くないんだけどね。登下校以外で」
「だろうな。……今日は助かった」
「お安い御用ですよ~、へへ。んでも、不安じゃないの? そりゃここは充実した設備がある学校だけど、中等部六年生に編入するとあっという間に卒業かもだし、勉強もテストもすっごく大変だよ? その後の進路とか、大丈夫なの?」
進路、という言葉に一瞬、体がぴたりと動きを止める。
担任に白紙の進路希望用紙を提出したのが、もう大昔のことのように感じられた。
「進路か……進路指導なんかも、学校であるのか?」
「そりゃあるよー。でもさぁ、今まで勉強して友達と楽しくやって、ってだけの毎日だったのに、いきなり将来のことなんて言われても現実味ないんだよね。私、五年生の最後にあった進路相談、『将来就きたい仕事』の欄、空白で出しちゃってさ」
「――――――」
〝将来のこと、まじめに考えてるの?〟
――急に、この世界での生活に現実味が増したような気がした。
一年後。俺はこの世界で、一体どんな
先行きは、これまでずっと白紙だった。
……
そう確信を持たなければならないからこそ――
〝――ごめんなさい、圭。ごめんなさい――――〟
――一刻も早く、この世界で生きる最低限の力を付け、魔女を探し、問い
「なぜ、俺だったのか」と。
「自分の適性を知る、なんて言うけどさ。
「そうだな」
「でも、家を継ぐってのも全然想像できないし、ていうかしたくないし。商売とか経営とか、聞いても全然分かんないし」
「商売……アルテアス家がやっているのか?」
「うん。うちの家、おっきい『ギルド』をやっててさ。それを継げって父さんがうるさいのなんの。プレジアの副理事長もやってるから、手が回らないみたいで。母さんにでも任せればいいのにさ」
「……
「え? あれ、言ってなかったっけ。私の父さん、プレジアの副理事なの。プレジアが立つときにお金出したんだって」
「…………」
……こいつが貴族のボンボンなのは把握した。
「親の言われるがまま、っていうのもなんかヤだし。かといって、特にやりたいことも思いつかないし。そんな感じでフラフラしてたら、あっという間に卒業の年が来ちゃってさ……アハハ。なっさけないよねぇ」
「そうだな」
「ちょ……そこはフォローしてくれるとこじゃないの?」
「気休め言っても何にもならないだろ。
「…………」
どんな返答を期待していたのか、半笑いのまま片方の
『やあ、アルテアスさん』
そんな沈黙を破るように、人当たりの好さそうな茶髪の少年がマリスタに声をかけてくる。マリスタは生返事を返しながら彼を見て、一度目を
「テインツ君じゃない。どうしたの、休みの日にいるなんて
『ちょっと、風紀の仕事があってね。ところでさ――』
テインツと呼ばれた少年が、左腕の
――と。その目がスッと細まり、俺の方を向いた。
『その人、知り合い? アルテアスさんが、見かけたことがない人と歩いてたものだから気になって。ご家族の人とか?』
「ううん、違うよ? 彼は――えっと、そう、外国からの転入生なの。まだリシディア語も話せなくて。私が色々、お世話することになったの」
『……そうなんだ。アルテアスさんが直々に世話をするなんて――――もしかして、外国の名家の人とか?』
「あー……あのね、テインツ君」
あくまでにこやかな少年に対し、なんとも居心地の悪そうな表情で
「マリスタ。彼に通訳魔法を使うように言ってくれないか。俺のことは俺が話すよ」
苦笑いで会話を続けようとしたマリスタを手で制し、そう言ってテインツとやらの目を見た。その表情はマリスタと話していた時とは打って変わって無表情になる。マリスタの求めに応じ、テインツは指を光らせた。
「……初めまして。僕はテインツ・オーダーガード。君は?」
「初めまして。ケイ・アマセという。以後よろしく頼――」
「アマセ……聞いたことない名前だね。アルテアスさんとは親しいの?」
………………。
「……いや。つい先日知り合ったばかりだ、
少年の目尻が
ああ。
だとしたら、とんだお
「ふーん、そうなんだ。もしかして君、義勇兵コースだったりする?」
「? いや、魔術師コースだが……どうしてそんなことを
「へぇ……とりたてて強いわけでもなくて、通訳魔法も使えないくらい魔法に
「感謝?」
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