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「っっ!!」



 首をひねられでもしたような声をしぼり出すシータ。

 テインツは眉根まゆねを寄せて――――そでについた、風紀委員会の腕章・・・・・・・・をシータの前にかざした。



「警備担当、および風紀委員の権限で、この店を調べさせてもらう」

「やややややちょっ!!!! ちょっっっ!!!!とまっって!!!」

「だからそういう態度をとるからますます怪しいんじゃないか! 多いんだよこういう時期は、かげで危ないことやってる連中が! まずはこの……本? 小冊子しょうさっしから見せてもらうから!」

「だから待ッ……勝手に触るんじゃないわよ商品に!!」

「触るのダメな商品って何なのさ、じゃあ見本を出してくれよ」

「みっ……や、だから……いいけど!! 別に悪いものじゃないけど!!」

「なんでそんなに見せたがらないんだよ……それが見本なんだね?」

「う、うん」



 シータが顔を赤青させながら、自分の足元から小冊子を取り出す。

 テインツが見ると、なるほど確かに見本であるようで、多少紙の端々はしばしにくたびれたあとが見受けられた。



「じゃあ、検閲けんえつする。まったく、大体見本がどうして商品と一緒に並んでないのさ。まるで誰にも売る気がないみたいじゃ――――」



 改めて、本の題字タイトルを確認し。



「――――」



 パラパラパラ、とななみし。



「――――ッッッ、」



 ――少年は顔を真っ赤にして、バヂンとそのうすい本をぶっ閉じた。

 シータの目玉が飛び出る。



「あ゛あッ゛ッ゛ンた何してんのよっ!!! 本がいたむでしょうがッッ!!!」

「え、や、あ、ご、ごめ…………じゃなくて君ッ!!!! なんてっ、なんてものを売ってるんだメルディネスッッ!!」

「なッ……なんてものとはどういう意味よっ?! 書いてあンでしょが『成人せいじんのみ』って!!! 年齢ねんれい的にはOKだし、ちょ、ちょっとこう、男と男が…………こう、こう・・してるだけでしょーがっ!!」

「両手でジェスチャーしなくていいんだよいちいちやめないか!! なにをスコスコ糸通ししてるんだ指で!!!」

わかってんじゃないのよ……とんだムッツリだわね」

「ちゃ、ちゃんと許可証は………………ある……」



 長机ながつくえの端に貼ってある営業えいぎょう許可証きょかしょうを、呆然ぼうぜんと見つめる茶髪の少年。

 同じく茶髪の少女は、何故なぜほこらしげに笑った。



「ふふン、よーく目をかっぽじって網膜もうまくに焼き付けておくといいのだわよ。ここは由緒正ゆいしょただしきBL本売り場、歴史だって長いんだから。その辺のポッと若気わかげいたり飲食店と一緒にしないでもらいたいものだわね」

「じゅ、十年だって?! こんな店、去年の警備の時は一度も……」

「あなたこんな端に警備来てないでしょ。たまたま見なかっただけよ」

「そ、そんな馬鹿な……び、びーえる本売り場なんかがこのプレジア魔法祭に……」

「ていうか。さあ、謝んなさいよ、オーダーガードっ」

「……え、」



 テインツが目をぱちくりとさせる。

 謝罪などつゆほどにも考えていなかった――暗にそう告げる彼の目を、シータはテンションを急降下させてにらみ付けた。



「『なんてもの』とか、『こんな店』って言ったこと。謝んなさいって言ってんのよ」

「あ……」

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