第34話 動き出す大魔法祭

1

 とりどりの光が、薄暗い空を華やかに行き交う。



 プレジア魔法魔術学校第二層、生活区画。

 普段から学生の声の絶えない賑やかな通りだが、プレジア大魔法祭の数日間はそれに輪をかけた騒がしさとなり、おもだった通りは全て人の群れにくされることになる。

 喫茶店きっさてんなどが日頃ひごろ出しているテラス席はすっかり姿を消し、代わりに学生が出す模擬店もぎてん統一感とういつかんなく――無論、食べ物とそれ以外、等ある程度の別はあるが――のきを並べている。



 そんな無秩序むちつじょな空間が第二層をはしから端まで、と言っても差し支えないほどに、互いにひしめき合うようにして存在し。

 校規こうきに触れる行いは、こうした人目に付きにくい場所でこそ起こるもの。



ゆえに、第二層の端が持ち場となっているテインツ・オーダーガードもくさることなく、己の与えられた仕事をまっとうしているのだった。



「当人とその家族までしか入れないとはいえ……今まで一体どこに居たんだ、ってくらいの人の多さだな。だからこそやりがいはあるんだけど。全くあいつは」



 はぁ、と大きなため息を吐くテインツ。

 そのかたわらに、先程まで一緒だったロハザー・ハイエイトの姿は無い。

 テインツの持ち場が末端まったんだとわかった途端とたん、何かと理由をつけてそそくさと居なくなってしまったのである。



警備けいびの仕事を何だと思ってるんだって話だ。結局ライブ会場の近くに居たいだけだったんだろうな、あいつは……みっともない奴だ。チケットに落選したならいさぎよく身を引けっての。…………はぁ。僕なんて抽選ちゅうせんに応募も出来なかったってのに」



 嘆息たんそくが、熱気に溶けていく。

 そうして、テインツがおもむろに戻した視線の先に、



「……ん?」



 彼女がちょこんと座る模擬店もぎてんは、存在していた。



 第二層の端。

熱気からわずかに遠ざかるはしっこの端っこに構えらえた、長机ながつくえと木製の簡単な椅子いすだけの小さな店。

 何冊かに分けて平積ひらづみにされた小冊子の向こう側には、フードを目深まぶかに被った少女。

 その少女を、テインツはよく見知っていた。



「ここ、君の店なのか?」

「ッッッ?!!!??!!!」

「うわっ?!」



 ゴトトトゴトリ、と。



 少女――シータ・メルディネスは、たずねたテインツの方が面食らってしまうほどに動揺どうようし、体をビクリとね上がらせた。



「な……なんだよビックリするなぁ。そんなに驚くことないだろう」

「あッ、あッ……アンタッ、」

「? 僕だよ、テインツ。テインツ・オーダーガード。顔食らい覚えてくれよ、一緒に劇作ってるだろ」

「そっ、そそそそのくらい分かってるわよ失礼な男だわね!」

「し、失礼まで言うことないだろ。ていうか、なんでそんなに動揺してるのさ君は」

「い、いやそれはっ」

「――――まさか、君。ここって」

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