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 ロハザーがあきれ顔で俺を見る。



「オメーなりに言うとすりゃあよ、あいつらはぜってーもらえない返事を期待して時間を無駄にしまくってんだぞ。かけた時間はそのまま、あいつらのお前に対する気持ちの総量だ。たった一言『その気はない』って伝えるだけの何が手間だってんだよ。それとも、オメーにとってマリスタやフォンの奴はその程度ていどの存在だって言いてェのか?」

「…………」

けの駄賃だちんだ、耳に痛てーこと言いまくってやるからよく聞け。……こいつらの言う通りだ。無意識でも天然でも何でもねぇ、お前は意図的に人の心をたぶらかしてもてあそんでる不誠実なクズ野郎なんだよ、今のままじゃ。宙ぶらりんにされてる奴らがどんな気持ちか考えろって。中途半端に希望を与えてやんなよ」

「な……何を馬鹿な、いい加減にしろお前ら。そもそも前提ぜんていからしてわけが分からん、あいつらの気持ちなんて俺は知らない、分かりようがないだろうがっ。だから俺は、あいつらが確かに」

「告白してくるまで待ってるってか?」

「…………そうだ」

「マジかよこいつ」

「徹底して受け身だね」

「たらしがよ」

「さも興味ないフリして、それだけ構えて待ってるんだもんなあ。『むっつり』ってこういうことなんだろうねビージ」

「ああ五月蠅うるせ五月蠅うるせえっ。外野がいやが言いたい放題言いやがって、いいからもう行けっ。俺の問題に口を出すな」

「誰が好き好んで出すかよバーカ。俺達にも火のが降りかかりそうだから言ってんの!」

「火の粉?」

「夕方の騒動そうどう見てりゃわかんだろーが。テメーのせいで今マリスタとフォンの関係サイアクだと思うぞ。見てる俺達だって気分ワリーっつの。あいつら出しモンの劇でも共演すんだぞ。おまえ騎士クローネを取り合う親友同士としてよ」

「!」

「みんなヒヤヒヤ……んにゃ、心配してんだよ、今のあいつらとお前の関係を。告白なんてイチイチ待ってねーで、お前の方からも拒絶きょぜつしに行けよ。俺らしっかり忠告ちゅうこくしといたからな」

「ッ……!」

「さ、行こうぜテインツ。不純ふじゅん異性いせい交遊こうゆう摘発てきはつしに」

「なんでそれ限定なんだよ他も摘発しろよ」

「さて。それじゃ僕らも行こうか、ビージ!」

「おう。ア~なんか胸がスッとしたぜ。まぁがんばれや。アマセよ」

「さっさといけっ」



 野郎共が去っていく。大きな大きな溜息ためいきが出た。

 まるで体が、知恵熱ちえねつを起こしそうな頭から少しでも排熱はいねつを試みているかのように。



〝告白なんてイチイチ待ってねーで、お前の方からも拒絶きょぜつしに行けよ〟

〝いつもみたいに、不愛想ぶあいそう無下むげにだけはしないで〟



 ……俺だけが被害をこうむるなら、それでいい。

 実技じつぎ試験しけんの時はどれだけ常識外れなことをしようと、直接的な被害を受けるのは俺だけだった。

 だが今回は違う。

 俺が動けば動くほど――いや最早もはやじっと動かずにいようとも、俺の周りで誰かがどこまでも傷付いていく。

 意図せぬ所で人が傷付いているとなれば、それは負債ふさいになる。



 債務負い目かかえたまま、債権者周りの者に接するのは具合が悪い。とてつもなく。



「…………」

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