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 ……実技試験の時は、俺の意図せぬ所では誰も傷付いてなどいない。

 その他大勢が勝手に勘違かんちがいをふくらませ、勝手に傷付いていっただけだ。だから、俺がそれを負債に思う道理はない。



 だがそうなると、どうにも今回は手際が悪いな。

 負い目は増えていくばかり。呪いの影響を加味かみしたって、まるで人が変わってしまったかのような……



〝アマセって、実技じつぎ終わってからグッと友達増えたわよね〟

〝俺、お前が心底好きかもしれん〟

〝ふふ。私も〟



〝私は、あんたの友達になりたい〟



 ……変わってしまった・・・・・・・・、のか。



 俺の周りにいる奴らはもう、俺にとってその他大勢ではなくなってしまっている――――



 ――――ここが、異世界ではなくなって・・・・・・・・・・きている・・・・



 順応じゅんのう、などと言う言葉が頭をよぎる。

 頭を振って、その言葉を無理やりに忘れ去った。



 早く力を取り戻さなければ。

 心身の鈍化どんかは、俺を復讐者からどんどん遠ざけ、ついには十把じっぱ一絡ひとからげへとせしめんとしている。



 此処ここに居る理由を忘れるな。

 戦いに身を置き続ける理由を忘れるな。

 ここが異世界であることを忘れるな。



 俺に安住あんじゅうなど許されないことを、決して忘れるな。



 早く力を取り戻さなければ。

 その為に、早く『痛みの呪い』への対処法を見つけ出さねば。

 その為に、一刻も早く情報源となる人物に接触を図らねば。

 その為に、俺を縛る由無よしなごと迅速じんそくに片を付けねば。

 その為にも、平穏の気配学祭をさっさと遠ざけねば。

 その為にも、パールゥ・フォンをとっとと遠ざけねば。

 その為にも、いち早く、奴に拒絶の言葉を――――



          あなたはお母さんと同          じ……いいえ。お母さ          んよりも大きい、大き          い優しさを持っている



「……くそっ」



 ……胃が痛い。

 呪いも何もなく、純粋にストレスでもつぶれそうになっているのだと思うとウンザリしてしまう。



 学祭がくさいが終わった頃、俺は一体どうなっているのだろう。

 まったく想像も付かん。



「ご――ごめんっ!」

「!」



 ――ふわり、と落ち着かない香りが鼻をくすぐる。



「はぁ、はぁっ……待ったよね。ごめんね、急いでたんだけどっ」

「…………遅れたのは間違いなく、その気合の入った身だしなみのせいだと思うんだが」

「そっ、そういうこと言わないのっ……でりかしーだよっ」



 ……マリスタの時もそうだったが。

 普段ふだんのローブ姿で、中に何を着ているかほとんど分からないだけに……こうしていきなり私服と対面すると目がチカチカしてしまう。

 ひざに手を置いて息を整えるパールゥの服装は、想像していたよりもずっと大人しめだった。

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